独仏核共有が進み始めた背景

 もう1点、MSC 2026では独仏の核共有について議論が始まったという大きな見出しが注目されている。

 メルツ独首相は2月13日、開幕時の演説に際して、マクロン仏大統領と核共有のあり方を巡る議論に着手したという事実を明らかにしている。米国依存の安全保障戦略が修正を強いられる以上、必然的に米国の核の傘をあてにした従前の戦略は根本的に成立しなくなる。ゆえに、フランスが保有する核をもって、新しいEUの傘とするという展開は必然の帰結にも思われる。

 もちろん、これは域内における独仏のパワーバランスが崩れる議論でもあるため、伝統的に忌避されてきた動きだが、経済が長期停滞局面に入ったと言われるドイツからすれば、もはや背に腹は代えられないというのが実情になるのだろう。

 欧州軍構想といったフレーズまで浮上する状況下、総論として「欧州安全保障の戦略的自立」という流れが立ち止まることはもう考えにくい。

 もっとも、総論で賛成しても「金目の議論」が各論をかき乱すのがEUの伝統である。金融市場の面からは、昨年3月より耳目を集めている欧州再軍備計画のファンディング手段に注目が集まる。

 今後フランスの発言力が強まるとした場合、総額8000億ユーロのうちの1500億ユーロ部分を占める欧州安全保障行動(SAFE)の取り扱いがどのように変容してくるのかという点は重要なポイントだ。

 なお、SAFEは日本語報道では武器基金、もしくは防衛基金といった名称でも報じられているが、以下SAFEと呼ぶ。

 現状、欧州再軍備計画は「6500億ユーロは各国の自腹(防衛費拡大)、残り1500億ユーロはSAFEを通じてEUが市場調達する共同債(ただし融資)」という建て付けである。「共同債として調達する」という事実ゆえに財政統合の一里塚として注目されているが、厳密な議論をすれば、資金の性質はあくまでEUへの返済を義務付けられた相対関係における「融資」だ(図表①)。

【図表①】

 例えば、イタリアがSAFEから100億ユーロの「融資」を受けた場合、これはイタリアが返済する義務を負う。これに対し、「給付」という形態が取られた場合、100億ユーロはEU全体で応分負担の返済が行われるため、各国への財政移転が認められた格好になる。これは本質的に財政統合の一里塚と言える。

 よって、厳密にはSAFEは欧州版ハミルトンモーメントと騒がれているほどの偉業をなしたわけではまだない(が、金融市場では、ドイツの債務ブレーキが解除された事実と混同しつつそのような評価を得ている節がある)。