領土問題の解決策についての筆者の私見
(1)和平協定案における領土問題の取り扱い
ゼレンスキー氏が2025年12月23日に公表した20項目の和平協定案の第14項(領土問題)には次のように記載されている。
この項目は未合意であり、解決に向けた複数の案があるという。
案1:「現在いるところに留まり続ける」
ドネツク州、ルハーンシク州、ザポリージャ州、ヘルソン州において、本協定締結日において軍が位置するラインを事実上のコンタクト・ラインとして認め、国際戦力がこれを管理する。
案2:「ドンバス自由経済圏」の創設
同地区の非武装化が想定される。ウクライナは、自軍の撤退に反対しているが、しかし、この案が実現する場合には、対称(鏡合わせ)的な軍の撤退、すなわちロシア軍の撤退も求めていくという。
この案の場合、協定の批准のためにウクライナでの国民投票が必要となるという。また、この問題は、最終的には首脳レベルで解決される可能性がある。
(2)和平協定案の第14項(領土問題)に関する筆者コメント
案1は、停戦のための軍事境界線の設定である。軍事境界線は、両軍が対峙する実際の接触線に基づくのが妥当であると筆者も考える。そして、多国籍軍で構成される停戦監視団が派遣されるのも妥当と考える。
案2は、まさにドンバス地域の領土問題である。ウクライナ軍が撤退したドンバス地域に「自由経済圏」を創設し、この地区は特定の国際機関等が管理するという案である。
しかし、ドンバスの軍事境界線の南側の領土問題はどうなっているのであろうか。
和平協定案第14項は、領土問題について全く論じられていない。たぶん「機密」に指定されているのであろう。
それとも、現在進められている和平交渉では、現在、両軍が対峙する接触線を軍事境界線として、ひとまず戦争を停止して、領土問題は将来に先送りすることに3国が同意しているのかもしれない。
筆者は、これがベストの解決策であるとみている。
(3)領土問題の解決についての筆者の私見
プーチン氏は、ドンバスに執拗にこだわっている。なぜか。
プーチン氏は、ドンバスを含むウクライナ東・南部を「ノヴォロシア(新ロシア)」と呼び、歴史的にロシアの一部であったと主張している。
そして、プーチン氏にとって、ドンバスの完全制圧は単なる領土拡張ではなく、ロシアの「偉大さ」を取り戻すためのものであり、和平協議においても妥協できない核心的な利益となっている。
一方、ゼレンスキー氏は、2014年(クリミア併合)や2022年(全面侵攻)以前の国境線、すなわち1991年ソ連崩壊時の国境線(クリミアを含む全領土)の回復を目指す方針を掲げている。
また、米国のトランプ氏は、ウクライナが、ロシアが望むように東部2州(ドネツク・ルハーンシク)とクリミアをロシアに割譲し、和平交渉が早期に妥結することを望んでいるとみられる。
次に、筆者の考える2つの解決策を述べてみたい。
策1の解決策は、和平協定案にあるように、ドネツク州、ルハーンシク州、ザポリージャ州、ヘルソン州において両軍が対峙する実際の接触線を軍事境界線として、領土問題の解決を将来に先送りすることである。
そして、ウクライナは臥薪嘗胆して実力をつけてから、「力」でロシアから領土を奪還するしかないであろう。
第2の解決策は、ウクライナが、クリミア自治共和国並びに「ルガンスク人民共和国」および「ドネツク人民共和国」のロシアへの割譲を容認することである。
ゼレンスキー氏は現在、クリミアを含む全領土の奪還を目指しているが、過去には次のような発言をしている。
●2022年5月21日、地元テレビのインタビュー:
「ロシア軍を2月の侵攻開始前のラインまで押し戻せばウクライナ側の勝利である。ロシア側に占領されたすべての土地を取り戻すのは簡単ではないし、重要なのは、命を惜しまず戦うウクライナ軍人の犠牲を減らすことである。今、貪欲になるべきではない」と語っていた。
したがって、ウクライナは、クリミア並びに「ルガンスク人民共和国」および「ドネツク人民共和国」のロシアへの割譲については、容認することができると筆者はみている。
これは、ウクライナの敗北ではない。ウクライナに平和を取り戻すためのやむを得ない妥協である。
また、特別軍事作戦の目的に「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」に住むロシア系住民の保護を掲げていたプーチン氏にとっても面目を保つことができるであろう。
しかし、ロシアは、ドンバス全域(ドネツク州とルハーンシク州)の割譲を要求してくるであろう。
その時は、最終的には米国が提唱している「自由経済圏」に乗るしかないであろう。
そして、ドンバス地域の軍事境界線から南側の「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」を除いた領域の主権問題は将来に先送りするのである。