最近の和平交渉・協議の経緯
2025年10月26日、米ブルームバーグ通信は、2件の米国とロシア高官の通話記録を報道した。
これにより、スティーブン・ウィトコフ米特使の「ロシア寄り」の姿勢が浮き彫りになり、与党共和党議員からも解任を求める声も出ている。
また、米国が作成した和平案がロシアの意向を汲んだものであることが露呈したとされる。
詳細は、拙稿『ウクライナ和平案巡る米ロ高官の通話内容はなぜ、どのように流出したのか』(2025.12.12)を参照されたい。
本項では、上記の米国・ロシア高官の通話記録の流出以降の和平交渉・協議の経緯を時系列的に述べる。また、本項は海外や日本の各種報道を筆者が取りまとめたものである。
①2025年11月20日:米国は28項目からなる和平案をウクライナに提示
米国は、米国とロシアがまとめた新たな「和平案」をウクライナに提示した。和平案では、ウクライナに対して、東部2州(ドネツク・ルハーンシク)とクリミアをロシアに割譲することを求めているとされる。
ゼレンスキー氏は11月21日、国民向けのビデオ演説で米国のドナルド・トランプ大統領の提案について触れ、尊厳を失うか、重要な仲間(米国)を失うかの選択をウクライナに迫るものだとの認識を示した。
また、トランプ氏はウクライナに11月27日までに和平案を受け入れるよう迫ったとされる。
②11月23日:ウクライナと米国による高官協議、和平案を19項目に絞り込む
スイスのジュネーブで、ウクライナと米国による高官協議が開催され、28項目の和平案を19項目に絞り込んだ。
その協議では、米側はマルコ・ルビオ国務長官、ウクライナ側はアンドリー・イェルマーク大統領府長官が参加し、途中からは英国・フランス・ドイツの政府高官も加わった。
③11月26日:EUの外相会合、ウクライナの主権や領土保全の確保を確認
EUの外相は、オンラインで非公式の外相会合を開催した。
ウクライナのアンドリー・シビハ外相も出席し、米国主導で進められる「和平案」について、ウクライナの主権や領土保全、固有の自衛権が確保されなければならないとの立場を改めて確認した。
また、トランプ氏は、11月27日に設定したウクライナ側の受け入れ期限を撤回した。
④11月27日:プーチン氏、米・ウクライナの和平案を拒否
プーチン氏は、訪問先のキルギスで開いた記者会見で、米国がウクライナとまとめようとしている和平案を拒否した。
ドンバス地域について、「ウクライナ軍が支配地域から撤退しなければ、武力で獲得する」と述べた。
⑤12月2日:和平案を巡り、米ロの隔たりは埋まらず
プーチン氏は、モスクワを訪問した米国のウィトコフ特使と会談した。協議は約5時間に及んだが、米国とロシアの主張の隔たりは埋まらなかった。
⑥12月9日:ゼレンスキー氏、大統領選挙の実施発言
ゼレンスキー氏は、ロシアによるウクライナ侵攻で延期されている大統領選について「安全が保証されれば、60~90日間のうちに行う用意がある」と記者団に語った。
⑦12月10日:ゼレンスキー氏、和平案の改訂版を米国に提示
ゼレンスキー氏は、和平案の改訂版を提示したと明らかにした。
提示した和平の枠組みには20項目から成る包括案に加え、ウクライナに対する「安全の保証」に関する文書などが盛り込まれているとされる。
⑧12月11日:米国、「自由経済圏」を提案
ゼレンスキー氏は、ウクライナ東部の一部地域からウクライナ軍を撤収させて、「自由経済圏」を設けることを米国から提案されたと明らかにした。
⑨12月15日:米国、ロシアの再侵攻を防ぐための「安全の保証」の提供を表明
ゼレンスキー氏は、ドイツのベルリンで、ウィトコフ米特使らと協議した。米高官らは協議後、「非常に強力な安全の保証」を提供する案を土台として協議を進めていると報道陣に述べた。
他国への攻撃を全体への攻撃とみなすという、NATO第5条(集団防衛)に準じたものになるという。
⑩12月24日:ゼレンスキー氏、20項目からなる和平案を公表
ゼレンスキー氏は、米国や欧州との協議で策定された20項目からなる和平案を公表した。詳細は次項で述べる。
⑪12月28日:米・ウクライナ首脳会談
トランプ氏とゼレンスキー氏は、米フロリダ州で会談した。
ゼレンスキー氏は、和平案について「90%合意した」としたが、領土問題で結論は出なかったと述べた。
⑫12月28日:米ロ首脳の電話会談、2つの作業部会の設置で合意
プーチン氏は、トランプ氏との電話会談で、安全保障と経済問題に関する2つの作業部会を設置することに同意した。
⑬2026年1月6日:ウクライナを支援する「有志連合」、パリで首脳会合を開催
ウクライナを支援する欧州主体の「有志連合」は1月6日、パリで首脳会議を開き、停戦後のウクライナに「強固な安全の保証」を提供することを謳った「パリ宣言」をまとめた。
パリ宣言では、欧州が主導する形で法的拘束力のある安全保障の枠組みを構築し、米国は停戦状況の監視・検証や情報収集などで役割を担うと位置付けた。
また、有志連合の参加国で構成される多国籍部隊の創設も盛り込まれた。
⑭1月22日:米国・ウクライナ首脳会談
ゼレンスキー氏は、スイスのダボスでトランプ氏と会談したが、実質的な進展はみられなかった。
⑮1月23日・24日:3か国高官協議:「安全保障に関する作業部会」の開催
米国・ロシア・ウクライナの3か国は1月23、24日、アラブ首長国連邦(UAE)の仲介によりアブダビで高官協議を実施した。
ウクライナ軍のドンバス地域撤退を求めるロシアとウクライナの隔たりは大きく、議論は平行線をたどった。
⑯2月4日・5日:米国・ロシア・ウクライナの3か国高官協議
米国とロシア、ウクライナは2月4日と5日、ウクライナ侵攻の終結に向けた3か国協議をアブダビで行った。
軍の高官級の対話を再開することおよび計314人の捕虜交換で合意したが、最大の焦点であるウクライナ東部の領土の扱いや「安全の保証」で実質的な進展はなかった模様である。
また、2025年7月にNATO(北大西洋条約機構)欧州連合軍最高司令官(兼米欧軍司令官)に就任したアレクサス・グリンケウィッチ米空軍大将が今回の協議に参加した。
米国がNATO軍の司令官を参加させた狙いは不明である。
⑰2月6日:米国、6月までに和平交渉の合意を提案
ゼレンスキー氏は2月6日、ウクライナの首都キーウで記者団に対して、米国が2026年6月までに和平交渉を終えることを提案していると明らかにした。
また、ゼレンスキー氏は、欧米が提供する戦闘終結後の「安全の保証」や領土の問題で進展がなければ停戦は受け入れられないという考えを示した。