トランプのアメリカ・ファーストと「超現実主義」
昨年12月に大きく書き換えられた米国の新しい国家安全保障戦略と、一連の「剥き出し」のアメリカ・ファーストの動きは、シカゴ大学の政治学者ジョン・J・ミアシャイマー教授らが提唱する「超現実主義」、あるいは「攻撃的現実主義(Offensive Realism)」と呼ばれる学説の影響を色濃く受けているように見受けられます。
リアリズムに徹した論理展開とその過激な見解から地政学や安全保障政策の分野で物議をかもしてきたミアシャイマー教授の「超現実主義」のポイントについて、誤解を恐れず簡潔にまとめると、①国際社会は「無政府状態(アナーキー)」であり、②国家は「自身の生き残り」を最優先し、一方で、③他国の「善意」はあてにならず、④軍事力(特に陸軍力)が国家のパワーの核心をなし、生存のため「攻撃的なパワーの獲得を追求」し、さらに、⑤地域の覇権国は他地域における覇権国の出現を阻止しようとする、というものです。
「超現実主義」を実践?するトランプ
こうしたミアシャイマー教授の主張を踏まえた上で、ベネズエラ大統領の拘束に始まる一連のトランプ政権の大胆な外交・安全保障戦略を振り返ると、この「超現実主義」に沿った冷徹かつ合理的な動きであることに気づかされます。

例えば、ミアシャイマー教授は「超現実主義」の中で、「国家は自らの地域での覇権(Regional Hegemony)を目指す」としています。翻って、トランプ政権は米国が位置する西半球での覇権の確立を最優先する姿勢を鮮明にし、西半球で政治的に米国と対立するベネズエラやキューバといった国々への軍事行動を含む外交攻勢を強め、パナマ運河を始めとする西半球の要衝における中国など他国の戦略的な動きを排除しようとしています。
また、ミアシャイマー教授は「国家は他地域における覇権国の出現を阻止して、自国地域が侵略されるリスクを低下させるよう行動する」と説きます。米国は①中南米における中国資本による投資を牽制・阻止するとともに、②極東地域では日本、韓国、オーストラリアなどと連携して中国に対抗し、③欧州におけるロシアの覇権確立を阻止するため、西欧各国に安全保障負担の増額を求めつつ北大西洋条約機構(NATO)への関与を維持しています。
さらに、米国は同盟国を含む他国の『善意』を信用せず、同盟関係を永続的な友好関係とはとらえず、NATOや日本などに通商問題で厳しい要求を突きつけ、安全保障政策についても応分の負担を厳しく要求しています。
そして、「米国の国益追求を止めるものは国際社会には存在しない(無政府状態)」とばかりに、世界トップクラスの産油国であるベネズエラや、地政学的価値が高くレアアースなど地下資源の豊富なグリーンランドの支配・獲得に邁進しています。
このように新しい国家安全保障戦略を打ち出したトランプ政権は、「超現実主義」を念頭に「剥き出し」のアメリカ・ファーストを実践しているかのように見受けられます。