二極化を迎える沖縄シャーマニズム
沖縄の宗教を調査した文化人類学者ウィリアム・レブラが1966(昭和41)年に発表した『Okinawan Religion』によれば、沖縄県民600人に対し1人のユタがいたという。当時沖縄の人口は約94万人だから、1500〜1600人ほどのユタもしくはそれに準ずるシャーマンがいた、ということになる。
現在では、沖縄県下で2000人以上のユタがいると推定できる。琉球新報が2011(平成23)年に実施した『沖縄県民意識調査』では、「あなたはユタへ悩みごとを相談しますか」という問いに対して、「よく相談する」「たまに相談する」の割合が16.9%となっている。「あまり相談しない(≒過去にユタに相談したことがある)」(18.3%)を含めれば35.2%に上る。
さらに、「沖縄の伝統的な祖先崇拝についてどう思いますか」の問いには、県民の92.4%が「とても大切だ」「まあ大切だ」としている。この調査からも沖縄では、民間信仰がいかに市民の生活に根付いているかが読み取れる。
沖縄では「医者半分、ユタ半分」という言葉がある。これは、西洋医学で病気を治療するのは医者だが、ユタの見えざる力によっても身体的、精神的にも治癒を期待する沖縄の人々の習慣をたとえたものだ。沖縄の一部の病院では、ユタの出入りが許されているほどだ。
「伝統的なノロは廃れていますが、一方でスピリチュアルブームの影響もあってユタの増加と商業化は著しいです。ユタはSNSを使って発信を活発化させ、『なんちゃってユタ』の横行も目立っています」と、先のAさんは指摘する。
ユタの相談料はかつて3000円(1〜2時間)ほどだったが、現在では1時間5000〜1万円まで上がっているという。中には富裕層を相手にしたユタ業も現れ、クライアントに10万円程度を支払う例もある。
先述のようにノロは神事を司る祭祀者であり、御嶽・拝所など神々の場で共同体の祈りを取りまとめる。一方、ユタの本来の役割は個人の霊的な相談に乗ることであり、内容も仏事寄りだ。
沖縄シャーマニズムの世界はいま、ノロは絶滅寸前、ユタは繁盛という二極化を迎えている。インバウンド誘致やリゾート開発が進む沖縄の、見えざる世界の話である。
鵜飼秀徳(うかい・ひでのり)
作家・正覚寺住職・大正大学招聘教授
1974年、京都市嵯峨の正覚寺に生まれる。新聞記者・雑誌編集者を経て2018年1月に独立。現在、正覚寺住職を務める傍ら、「宗教と社会」をテーマに取材、執筆を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』『仏教の大東亜戦争』(いずれも文春新書)、『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)、『絶滅する「墓」 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)、『ニッポン珍供養』(集英社インターナショナル)など多数。大正大学招聘教授、東京農業大学非常勤講師、佛教大学非常勤講師、一般社団法人「良いお寺研究会」代表理事。公益財団法人日本宗教連盟、公益財団法人全日本仏教会などで有識者委員を務める。





