若いノロの誕生に湧いた本部町

 宗教統制の一環としてノロ制度がつくられた。ノロの頂点に君臨したのが、聞得大君(キコエノオオキミ)である。聞得大君の地位は代々、王族出の女性に与えられ、琉球全土にノロが置かれた。こうして、琉球では宗教的に人民を支配する祭政一致体制が作られていった。

 ノロには公地や殿内(ドゥンチ)と呼ばれる屋敷が与えられるなど、高い地位にあった。殿内にはカマドの神である「火の神(ヒヌカン)」を祀った。

 ノロの主たる役割は、ムラの祭祀を先導することである。ニライカナイの神や祖霊、様々な精霊と交流を持ち、聖なる空間である御嶽(ウタキ)を管理しながら、海の安全や五穀豊穣、ムラの繁栄などを祈った。ノロを継承するのは女性だけで、かつては世襲だった。

フクギ並木の中に、備瀬の拝所がある(写真:鵜飼秀徳)

 ところが、明治初期の廃藩置県によって琉球王国が解体されると、公儀ノロの制度は消滅した。だが、本部町では現在に至るまで、地域社会が儀礼を守る存在としてのノロの継承に努めている。地区によっては90歳を超えるノロが現在も存在しているとみられるが、高齢化により活動は限定的とみられる。

 本部町では近年、若いノロの誕生に沸いた。町の中心地にある渡久地地区において2025年7月、40代のノロ(Aさん)が誕生したのである。

 彼女は幼少期より強い霊性を持っていた。就寝中に見る夢の風景は、色彩・匂い・触感まで伴う鮮明さで、「周囲の人にはそれらが見えない」と気づくまで、自分の体験が特別だとは思っていなかったという。母からは「こうしたことは口外してはいけない」と諭され、長年胸中に秘めてきた。

 30歳の頃に「神」を名乗る存在が夢に現れた。そこで、具体的な御嶽の場所や、神事の座席順、地区にいた3人のノロの存在などを示し「お前もノロになる運命だ」と告げられた。しかし、Aさんは「私はまだ若く未婚で、人としての成熟が十分でない」と判断し、召命を保留した。

 そして結婚や育児を経て「今が時期」と感じるに至ったAさんは、前任者が約40年間務めたノロの座を継承したのである。

ノロの文化が残る本部町渡久地地区(写真:鵜飼秀徳)