絶滅寸前のノロとは対照的に数を増やすユタ

 Aさんは定期的に祭事を務める他、旧暦の7月17日〜22日に実施されるシニグ(神の加護に対する感謝祭)を主導する。シニグは地区の女性のみが参加でき、夜中に神前で円陣をつくり、太鼓に合わせて唄い、舞い続けるという奇祭である。

 Aさんは、ノロ文化の継承の難しさを口にする。

「かつてノロは公務員のような存在でしたが、現在では、他に仕事を持ちながらボランティアで責任を果たしています。現代社会では、生活を犠牲にしてまで伝統的な役割を引き受ける若者は、極めて少ないのが実情です」

 それでもAさんは、伝統的な神事のやりかたを文献から紐解き、古来の正当な儀式を再現する試みを続けている。また、御嶽や拝所のありかを後世に伝えるため、デジタルマップに落とし込む作業なども大切な仕事だと語る。

 さらに、渡久地地区のシニグの無形民俗文化財への登録に向けて、県に働きかけを実施するなど、ノロ文化の保全に努めているという。

シニグなどの神事が行われる渡久地の拝所(写真:鵜飼秀徳)
植物と岩が織りなす聖地、浜川御嶽(南城市)(写真:鵜飼秀徳)

 Aさんは近年のインバウンド需要の高まりによって、聖地が荒されることへの懸念も口にした。本来、部外者が御嶽の中に入ることは御法度だが、このところ聖地に物を持ち込んだり、食事をしたりする行為が増え、荒廃を招いていると指摘する。

 ノロが減少する一方で、沖縄におけるもうひとつの呪術師「ユタ」を名乗る者は増加している。ユタとは沖縄や奄美地方で活動する民間のシャーマンである。

 ユタの発祥の時期は不明だが、8世紀とも9世紀とも言われている。ユタは「人々を惑わす」として王朝時代以降、4度、「ユタ狩り」の迫害を受けた歴史を持つ。最後の弾圧は昭和初期の戦時体制下で実施された。

 だが、ユタは戦後も生き延び、近年はスピリチュアルブームの追い風も受け、最近では若いユタが増えているという。

 ユタは、地域の祭祀を担うノロとは違い、個別のクライアントをつけ、「拝みごと」「占い」「霊視」「先祖供養」「病気治し」などを幅広く引き受ける。近年は「スピリチュアルカウンセラー」などと名乗るケースも見られる。