霊長類やヤドカリ、鳥類の研究に応用も
実はジニ係数は、現代社会の所得格差や再分配の測定に使われるだけではありません。資源の偏りや不平等一般を測ることができるため、さまざまな「応用」が行われています。
米国の考古学者、ティモシー・コーラー博士は2017年、ネイチャー誌に発表した論文のなかで、旧石器時代以降のジニ係数を計測しました。ジニ係数を算出する際の本来の計算式では、変数は個人の所得や資産などです。これに対し、コーラー博士が使った変数は、古代の家の床面積や集落の構造、穀物の貯蔵施設の大きさ、墓の副葬品の量や豪華さ、土器や装身具の質と量などです。その結果、北米大陸よりもユーラシア大陸で格差が大きかったことを明らかにしました。
古代社会を対象とした研究は他にもあります。それらによると、新石器時代の集落のジニ係数は 0.2前後で、かなり平等な社会でした。ところが、古代メソポタミアやローマ時代になると、ジニ係数は0.4〜0.6に上昇。現代国家並みか、それ以上の格差が生まれていたことが分かりました。研究者たちは「国家ができると格差が生まれる」「格差拡大は資本主義だけの問題ではなく、富や権力の存在するところに発生する」などと結論付けています。
ジニ係数は動物社会の分析でも利用されています。
フランスの動物行動学者、セリーヌ・デュビーク博士は霊長類の格差社会を分析しています。霊長類の食物と交尾機会の不平等に関する研究では、各個体が得た餌の回数や量を観察し、群れのなかでジニ係数を算出。その結果、支配的なオスが多くの餌を独占するため、ジニ係数が高くなることが判明しました。逆に協調的な群れではジニ係数が低くなり、富の偏在も小さくなっていました。
そのほか、ミーアキャット、ヤドカリ、鳥類などを対象にしたジニ係数の応用もあります。いずれも富の偏在を明らかにする研究で、格差は人間社会だけのものではなく、あらゆる生き物に見られ、あちこちで資源の独占が行われていることを証明しました。そう聞くと、最近の格差拡大についても「人間だけじゃないんだ」と少しは気が楽になる……?
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。高田氏の近著に『調査報道の戦後史 1945-2025』(旬報社)がある。