日本の勝ち筋として竹中氏は「東京の強化」も挙げている(写真:共同通信社)
目次

 トランプ関税と令和の米騒動で揺れる日本経済は、そもそも成長性も目指すべき方向性も見いだすことができずにいる。この国の勝ち筋は一体どこにあるのか。『日本経済に追い風が吹く』(幻冬舎新書)を上梓した慶應義塾大学名誉教授の竹中平蔵氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──富裕層が生まれない日本の税制を問題視しており、富裕層向けのさまざまなサービスとその可能性についても本書の中で言及されています。格差社会が問題視される今、なぜ富裕層ビジネスに注目されているのでしょうか?

竹中平蔵氏(以下、竹中):確かに格差は世界的に問題になっています。でも、日本は海外の先進国と比べると、深刻なまでに格差が大きいわけではありません。

 フランスの経済学者トマ・ピケティは資産課税を重くすることを推奨していますが、日本は資産課税が最も重い国の1つです。所得税を5%~45%も徴収して、さらに相続税も10~55%徴収します。その結果、アメリカに見られるような超富裕層は日本ではほとんど生まれていません。私はそこに問題があると思います。

 アイルランドからアメリカに移住してきたケネディ家は「自分たちの家系から3代で大統領を出す」と言って資産を引き継ぎながら力をつけ、本当に3代目で大統領を生み出しましたが、日本では大きな資産の継承は難しい。

 技術が強烈に発展する段階では、必ず一定の格差が生じます。技術を使いこなして膨大に稼ぐ人と、スマホさえ使えない人の所得の差はどうしても拡大します。

 ある程度の格差は避けられないのであれば、そのことを前提に富裕層ビジネスに勝機を見出してはどうかと思うのです。

 例えば、東京という街は素晴らしいですが、弱点の1つは高級ホテルが少ないことです。世界各国のアリーナには、20〜40室ほどのスイートルームが備え付けられるのが定番です。7月にオープン予定の音楽やスポーツが楽しめる1万7000人を収容できる愛知県のIGアリーナ(愛知県体育館)にはスイートルームや貴賓室があります。

 高額な年間契約を取ることで、むしろイベント全体のチケット代を安くできる。こうした経済のメカニズムにも着目すべきだと思います。富裕層がお金を使えるようにすることで、それ以外の層にもメリットがあるのです。

──富裕層が増えると投資が活発になるとも書かれていました。

竹中:日本にはなかなかベンチャーキャピタルのようなファンドができません。ベンチャーをされている方々と話をすると、「ファンドにお金を出してもらうと自由がなくなる」という話をよく聞きます。ファンドに集まる投資が少ないために、ファンドがリスク回避に敏感になっていることの表れです。

──日本の勝ち筋として「東京の強化」も挙げています。東京は人口過密が問題になり、地方への分散の必要こそ叫ばれてきましたが、むしろ東京の強化が必要なのですか?