地方より東京の強化が必要な理由
竹中:今世界は知識産業の時代です。知識産業が育つのは都市です。
経済学者のヨーゼフ・シュンペーターはイノベーションという概念を使って経済を分析しましたが、イノベーションは何かと何かが結び付く新結合によって生み出されます。新しい結びつきが生まれるのはどこかというと、リソース、ビジネス、人材が集まる場所、つまり大都市です。現代はむしろ世界的に都市の時代なのです。
リチャード・フロリダというアメリカの都市学者が言っていますが、夜中に衛星写真で地球を撮ると、30から40の光の塊が見られるそうです。この光の塊はメガリージョンであり、その中でイノベーションが起きているのです。
世界的に最も大きなメガリージョンの1つは東京で、これは日本が誇るべき財産です。東京ばかりが恵まれ過ぎているという声も聞かれますが、一方で東京は世界中の都市と競争しています。
森記念財団の都市戦略研究所は10年以上も、世界の都市総合力ランキング(GPCI)を公表しています。これを見ると、東京は4位から3位に上がりましたが、そこから上にはなかなか上がれません。下からはシンガポールなどが追い上げてきます。
日本の人口は減っていますが、首都圏の人口は増えている。雇用の機会があふれ、活力になっている。東京は日本が誇るべきキラーコンテンツです。
「東京を弱くして地方をその分強くしよう」「東京のリソースを地方に分散しよう」ではなく、「東京も地方もそれぞれもっと強くしよう」という考え方をするべきです。日本では60年代からずっと地方分散政策を試みてきましたが、失敗の繰り返しでした。
──東京のどのような面を強化すべきでしょうか?
竹中:「東京を国際金融センターにしたい」と語る人がいますが、そのためには税制の見直しが必要です。たとえば日本の所得税は5%~45%ですが、シンガポールだと0%~24%です。だから、シンガポールは金融の中心になるのです。
また日本で経営しようと思っても、非常に硬直的な労働の規制がありますから、柔軟な経営をすることは難しい。東京を強くするためにはさまざまな規制の枠組みを考え直さなければなりません。
交通面はだいぶ解消されてきましたが、文化施設の充実具合なども、ニューヨークなどと比較すると東京はまだ見劣りするので、強化していく必要があると思います。