「新自由主義を目指したことはない」
──竹中さんはしばしば、日本において新自由主義を象徴する人物のように評されますが、このような語られかたについて何を感じますか?
竹中:新自由主義とは、やや極端な言い方をすれば「すべてマーケットに任せよう」という考え方です。そのような考え方をする人に私は出会ったことがありません。「今まで政府がやっていたことを部分的に民間に任せましょう」と提案する人を新自由主義者とは言えないはずです。
イギリスのマーガレット・サッチャー首相やアメリカのロナルド・レーガン大統領は、英国病や米国病があったので、民間の活力を活かすために、かなり思い切ったことをやりました。
例えば、サッチャー政権は石油関係の事業を手掛けるブリティッシュ・ペトロリアムや、通信事業を手掛けるブリティッシュ・テレコムを民営化しました。民営化を主導するリーダーを、人はなんとなく新自由主義者だと思っています。

中曽根康弘元総理も国鉄の民営化をしましたが、日本が新自由主義かというと、全くそうではないと思います。
アメリカとイギリスは「ゆりかごから墓場まで」というスローガンで有名なように、福祉国家を目指しました。結果的に政府が大きくなり、民間の活力が失われたので民営化に舵を切ったのです。日本はそもそも福祉国家を目指していません。
サッチャー首相やレーガン大統領の民営化と中曽根首相の民営化は背景が違うし、日本はその後の規制改革も進んでいませんから、全く新自由主義ではないと思います。そして私自身も、新自由主義を目指したことはありません。
竹中平蔵(たけなか・へいぞう)
慶應義塾大学名誉教授
ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣を皮切りに、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣兼務、総務大臣を歴任。2006年より慶應義塾大学教授など。現在、慶應義塾大学名誉教授、世界経済フォーラム(ダボス会議)理事。博士(経済学)。著書は、『構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌』(日本経済新聞出版社)、『研究開発と設備投資の経済学』(サントリー学芸賞受賞、東洋経済新報社)など多数。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。