外国の高度人材を絞り始めたシンガポール
横濱:かつては「人材こそ国の柱」という感覚で、優秀な人材が集まりやすい制度設計にしていましたが、今では「国の柱を外国人が埋めるのは好ましくない」と考えられるようになり、2011年辺りから、選挙のたびに外国からの高度人材の受け入れがイシューになってきました。
シンガポールには、シンガポール国立大学(NUS)や南洋理工大学(NTU)などの優秀な大学がありますが、そういうところを卒業した人材を差し置いて、外国の人材が重要なポジションを取っていくことは避けたいという考えがあるのです。国内の優秀な人材への投資(親の教育投資など)も膨大です。
制限の方法として、ビザの要件になる月収の水準があるのですが、その額を上げています。かなりの高給取りにしか高度人材のビザを出さないということです。
高度人材の一つ下の中技能の外国人技能者向けのビザをSパスと呼びますが、こちらに関しても要求する所得の水準を上げて対象を絞っています。
しかも、こちらはクオーター制になっているので、職場で一定の割合しか外国人を雇えなくなっています。高度人材のほうでもポイント制を通じてクオーター制を導入する動きが始まっています。
外国人の就労に関しては、さまざまな要件をポイント制にして、合計で一定のポイントを稼げる人以外は入れないようにしているのです。
──不法移民の権利についての考察が書かれています。米国のトランプ政権は繰り返し、不法移民の強制送還を提案してきましたが、米国には膨大な数の不法移民がおり、彼らを押し返すことは現実的に難しいという側面もあります。長年、滞在して働いた不法移民に権利を与えるか否かの議論について、どうお考えになりますか?
横濱:議会の審議を経て入管に関して法律ができるのであれば、国民の決定ということでいいと思いますが、米国では排斥側のトランプ大統領も、受け入れ側のオバマ元大統領も大統領令で強引に実行してきた印象があり、この進め方には疑問を覚えます。
では法律ができれば、それで問題が解決するのかというと、私は最近必ずしもそうではないと考えています。国境管理は実効性を担保することがとても難しい。非正規移民を雇用している側からすると、重要な戦力なので彼らを取られたくないという本音がある。そういう人たちは行政の取り調べに対して協力的でない場合があります。

加えて、現場レベルの行政官は現実を前にしてそこでさまざまな手心を加えることもあります。行政上のルールに従って仕事をしていたら上手くいかないことや片付かないこともあるからです。
──地元の要望や移民の悩みを反映するのですね。
横濱:そういうことも全部含めての入管であり国境管理です。非正規移民が100%いない状態を実現することは現実的ではありません。そうした事情を考えると、やはり一定、滞在を合法化して権利を与えていくことを考える余地はあります。
そして、不法移民の強制退去が現実的ではない一番の理由は行政コストがかかりすぎるという問題です。アメリカでは一時1150万人ぐらい非正規移民がいました。この人たちをまとめて返すのは、現実的ではありません。
現実味を踏まえた議論をしないで、こうあるべしを言っても意味がない。日本の不法滞在者をゼロにするという目標にしても同じことが言えると思います。
横濱 竜也(よこはま・たつや)
静岡大学学術院人文社会科学領域教授
1970年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。現在、静岡大学学術院人文社会科学領域教授。専門は法哲学。著書に『遵法責務論』(弘文堂)、『日本の夜の公共圏』(共著、白水社)、訳書にカレンズ『不法移民はいつ〈不法〉でなくなるのか』(白水社)他。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。