今後、問題になる途上国から先進国への頭脳流出
──頭脳流出問題に対して移民正義論はいかに回答するべきかという点についても本書の中で触れています。
横濱:日本でも、優秀な人材が他国に流出しているということがしばしば問題視されます。ただ、より切実に問題になるのは途上国の医療従事者の流出です。
医学を勉強している人たちはエリートで、教育にお金がかかっています。そういう人たちが途上国から先進国に逃げてしまうと、途上国側の損失はとても大きなものになります。しかも、医療は必要不可欠なインフラです。
そこで、その人材がもともといた国は、その人が国を出ていく場合には、高い税金を課すことで出にくくするか、育成にかかったコストを本人から返してもらうという対策を取る場合があります。
しかし、それだけではやはり人材の先進国への流出は止められません。そのため、途上国側の努力だけではなく、受け入れる先進国側もそうした途上国からの人材の受け入れを制限していくことが必要になると私は考えています。ただ、この考え方は人の移動の自由を制限しますから、開放国境論者たちはとても警戒しますね。
──何か問題のある人たちの入国を禁じるのではなくて、むしろ優秀な人の入国を制限するわけですからね。
横濱:悩ましいですね。でも、移動の自由だけを重視すればいいという立場を私は取りません。ある程度は国際間で人材を平等に配分する対応が必要だと思います。先進国の側から、人材を育てる膨大な資金を途上国に払うのが本来は筋論なのですが、それができていない中で、高度な医療人材を取ってしまうとますます格差が広がってしまいます。
──このあたりの問題意識はすでに海外で共有され、国際的な対応が取られているのでしょうか。
横濱:まだそうした議論もあるという段階です。これから考えていかなければならないテーマになっていくと思います。
エリートの受け入れ対策という意味では、一部の先進国で高度人材一般の受け入れを先進国の側が制限する動きが見られます。アメリカのH-1Bビザの制限などがその一例といえそうです。
──海外から来た高度人材に仕事を取られてしまうという危機感ですね。
横濱:そうです。シンガポールでも同じように高度人材の受け入れを絞り始めています。