「ネイションの再統合は無理と思い始めている」
河野:アメリカは南北戦争後、1960年代半ばの公民権運動によって法律上は人種的な平等がようやく規定されましたが、それでも「ネイションの統合」が確立したと思っている人は少ない。
オバマ大統領の誕生やオバマケアの実現は、外国から見ると、アメリカの統合が実現されて、理想の国家になったように映りました。ところが、公民権運動以来、実態としてはむしろ分断が続いていたのでしょう。
私はかねて人間は数字よりもストーリーで動くと思っていたのですが、まさにトランプの支持者たちである白人の低所得者層は「ディープ・ステート(闇の政府)の陰謀」により、非白人が優遇され、自分たちの生活が悪化したというストーリーを信じています。それが心で感じるディープストーリーです。
お金持ちだけでなく、所得が低い人も歳出拡大に反対し、減税を支持するのは、同じネイションに再分配されていると信じていないからです。ヴァンスたちが歴史やコミュニティを重んじるのは、共通の物語を語ることができるのがどこまでかということを強く意識しているからです。
ミランたちエスタブリッシュメントも、もはやネイションの再統合は無理と思い始めているのではないでしょうか。
「アメリカの覇権喪失はローマ帝国の滅亡と同じ」と語る河野氏
──先住民や黒人奴隷の問題を考えればひどい話ですね。ヴァンス氏が次の大統領になったら、さらに怖くなる感じがしますね。
河野:はい。ただ、彼はトランプのように融通無碍ではなくて、原理主義的です。
アメリカはジョン・ロックのリベラル思想(個人の自由や権利を尊重し、政府の権力をコントロールする)をもとに作られた国家ですが、ヴァンスはジョン・ロックの「所有権的個人主義」を否定的にとらえています。
それを実現しようとすれば本当に革命になります。革命だと大混乱が起こりますから、私はそれを危惧しています。グラデュアルな改革でないと成功しません。
──次元は違いますが、欧州でも極右政党の勢力は拡大していますし、日本でも移民受け入れの拡大や外国資本を問題視する参政党が参院選では躍進しました。既存政党が支持を失い、政治の流動化が始まっていますね。