アメリカの衰退はローマ帝国の滅亡と同じ

──河野さんは産業政策の上でも米国に批判的です。逆に、多くの人は中国の政策を軽視し過ぎていると考えていらっしゃるようです。

河野:米国では反トラスト法の精神が失われ、政治献金が青天井の中、企業の独占力が強まっています。ITだけではなく、すべての業界でそうです。人手不足のもとで、人材の囲い込みの独占化も進んでいるので、値上げはするけれど、賃金を抑え込むことができます。

 ところが、権威主義国家であるはずの中国は、巨大企業が中国共産党の脅威にもなるので、独占や寡占を抑えて競争状態を維持しようとしています。これがディープシーク誕生の舞台裏にあります。

 また、欧州が独占の解体や個人情報の保護に努めているのは周知の通りです。今はアメリカの生産性が高まりアメリカの競争力は強く見えますが、将来はこうした競争政策の違いの影響が出てくるのではないでしょうか。

──河野さんは、今回の本でアメリカが覇権を失うのは中国やグローバルサウスの台頭が原因のように見えるけれども、本質はそうではなく、アメリカ社会が分断され、内部崩壊を起こしているからだと指摘しています。また、今のアメリカでは合理的な損得よりも「物語としての公正さ」が求められているとも解説しています。

河野:ローマ帝国の滅亡と同じだと思うのです。その本質は、異民族の侵入によるのではなく、帝国の内側で制度の正統性が失われて信認を失い、エスタブリッシュメントでさえ、支えようとしなくなったということです。

 アメリカも、ニクソンショック、プラザ合意、今回のトランプ関税と共和党政権のもとで外国に負担を押し付けて、解決策を求めていますが、真の問題は内部にあります。

 通貨覇権から得られる利得をグローバルエリート層が独占する一方、グローバリゼーションによって製造業が空洞化していき、労働者や地域社会にお金が回らなくなったのです。民主党政権は米国内の再分配の問題だとわかっているから、さすがにニクソンやレーガン、トランプのように負担を各国に押し付けようとはしません。

 ただ、民主党政権も1990年代のクリントン政権以降は共和党以上にIT、金融業界の献金に絡め取られてしまい、高所得者層への大きな課税もできなくなりました。

 ヴァンスの演説に見るように、トランピズムは単なる保護主義や権威主義でもない。従来の右とか左ではなく、エスタブリッシュメントと反エスタブリッシュメントの対立が鮮明になっています。

 本には、ここから先は書いていませんが、今思っているのは、さらに根深い問題が存在するということです。

──どういうことでしょうか?