性的マイノリティに肯定的な人ほど反移民政策を支持するねじれ

──アメリカは移民の国ですが、同時に国民皆保険制度のない国でもあります。やはり、移民を大量に受け入れるためには、国民皆保険制度ではないほうが受け入れやすいということですか?

中井:その点に関していうと、アメリカは少し事情が特殊で、興味深い独特の考え方があるという研究結果があります。

 ナショナリズムの効果の中には、仲間意識を持つことで助け合いが生まれるという感覚があり、アメリカには「愛国心が強い人ほど困っている人を助けたいと考える」という研究データがあります。

 ところが、同時に「政府は貧しい人を助けるべきか」という質問をすると、逆転して「政府は人々の経済活動に介入すべきではない」という回答が多くなるのです。恐らくアメリカ人の考えるアメリカらしい考え方の中に、自助努力を重んじる観念が強いからだと考えられます。

──ノルウェー、スウェーデン、スイスなどでは「性的マイノリティの権利に肯定的な人ほど反移民政策を支持する傾向がある」と書かれており、驚きました。

中井:正確には、そういった傾向が見られ始めているというべきかもしれません。

 かつては、排外主義を唱える人々はジェンダーに対する規範も保守的な傾向が見られました。ところが最近は、この相関関係が少しずつ変わってきていて、むしろ逆転する場合が見られます。これは特にヨーロッパで見られる現象で、「外からやって来る人たちは我々の自由や平等の価値観を共有していない」「だから受け入れたくない」と考える人が増えています。

 こうした主張が政治家のレトリックとして使われ始めたのはこの20-30年ぐらいですが、最近はより一般の人々の会話の中にも見られるようになってきました。特に若年層を見ると、移民問題で保守的であることと、性規範で保守的であることの間に相関関係がなくなっているというデータがあります。

 つまり、ジェンダーに関する議論ではオープンで移民政策に関しては保守的という層が増えているのです。反移民政党の支持者の過半数が、そうした考え方を持っている国も出てきました。

──もともとリベラルの中には、性的マイノリティも移民も受け入れていこうというスローガンがあったように思いますが、そこが分裂すると、ますますリベラルは弱体化しそうですね。

中井:その可能性はありますが、「性規範では保守、移民政策でも保守」という塊と、「性規範ではオープン、移民政策では保守」という塊が一枚岩になるかというと、そこは恐らく別物ですよね。このあたりが今後どのように政治的なまとまりや対立を見せていくのかは、まだ定かではありません。