憂鬱から解放される「首尾一貫感覚」とは

舟木:準拠枠とは、人がそれまでの経験や価値観、育った環境などからつくり上げる「世界の見え方の枠組み」です。同じ出来事でも、準拠枠が異なれば当然、受け取り方が変わるため、コミュニケーションのズレの原因となり得ます。

 以前、大阪出身の方と話していたときに何度も「アホ」と言われて不快な気持ちになり、その方と距離をとるようになったことがあります。でも、相手からすれば、なぜ距離を置かれることになったのか理解できなかったのでしょう。彼は、私が距離を置いた理由を尋ねました。

 そこで、何度も「アホ」と言われるのが不快であったことを説明すると、「大阪の『アホ』という言葉は、東京の『アホ』とは意味合いが違って親しみを込めて使います」と教えられ、準拠枠の違いを痛感しました。

 お互いの枠組みを理解しないまま会話すると、コミュニケーションはお互いが思っている方向とは全く別の方向に進んでしまう。だからこそ、丁寧に準拠枠を照合しあう姿勢が必要なのです。

──本書では、憂鬱にされないために身につけるべきスキルの一つとして「首尾一貫感覚」が紹介されていました。

舟木:「首尾一貫感覚」は、1970年代に医療社会学者のアーロン・アントノフスキー博士(1923~1994)が医学的な聞き取り調査の成果として最初に提唱したもので、別名「ストレス対処力」とも呼ばれています。

  アントノフスキー博士は、第二次世界大戦下のナチスドイツで強制収容所に収容された体験を持ちながら、その後も数々の試練を強く生き抜いたユダヤ人女性たちに着目しました。いずれも、過酷な体験をしながら健康で明るい女性たちでした。

「このような過酷な試練を乗り越えて、強く明るく生き抜くことができた彼女たちは、どのような考え方や価値観を持つ人々なのだろう」

 博士は、そうした女性たちに共通していた考え方や思考を分析しました。そこで見出されたのが3つの感覚であり、それらを総称して「首尾一貫感覚」と名づけたのです。

「首尾一貫感覚」の1つ目の感覚は、「把握可能感」です。これは「だいたいわかった」という感覚です。何か問題が生じても「こういうふうにすれば乗り切れるだろう」「こう対応すればいいだろう」と予測できる感覚です。つまり、いろいろな事態に対し、「想定の範囲内」と感じられるかどうかということです。

 2つ目の感覚は「処理可能感」で、これは「なんとかなる」という感覚です。言い換えれば、問題が起きたときに自分の資源を使ってタイムリーにそれを解決できるという確信です。資源とは、その人のもつ人脈やお金、成功体験など全てを含みます。

 3つ目が「有意味感」で「どんなことにも意味がある」と意味づけできる感覚を指します。辛い状況や高い壁に直面しても「これを乗り越える価値がある」などと感じられる感覚です。