シャラメ(マウザー)の魅力が爆発する瞬間
本作のモデルとなったリースマンは世界選手権で表彰台に複数回あがり、全英オープンや全英オープンでもチャンピオンに輝いたが生活は苦しく、「ヨーロッパやアジアでは卓球のスター選手は国民的な存在なのに、アメリカでは違う」という愚痴を言っていたという。
その中でアメリカで唯一、卓球がカルチャーとして存在していたニューヨークにいたから生計が立ったと言えるが、そのカルチャーとはスポーツマンシップとはかけ離れた、賭け卓球と曲芸としての見世物卓球の世界だった。サフディの大叔父がリースマンを見かけたという「ローレンス」とは、賭け卓球の名店だったのだ。
本作のマウザーは大会参加の渡航費などを賄うために、賭け卓球以外にもあらゆる手段で収入を得ようとする。その中でも最難関なのが富豪のボールペン会社社長、ミルトン・ロックウェル(ケヴィン・オリアリー)に取り入ることなのだが、自分のモテ力に絶対の自信を誇るマウザーは、ロックウェルの妻であり、ハリウッド女優でもあるケイ(グウィネス・パルトロウ)に近づこうとする。
ハリウッド女優としての活躍は過去の栄光、落ち目となった現在は舞台を中心に活動するケイにとっては、マウザーの狙いが富であることは承知しつつも、自分に価値があると思わせてくれる人間だ。お互いのやり方を理解しつつ手を打ちあい、卓球台のないショットの応酬が行われる。
当初はマウザーを相手にしていなかったケイだが、明日は勝つから試合を見に来てくれと言われて、マウザーの試合を見に行くシーンが中盤にある。黒いベールを被りお忍びで観戦にくるケイの目の前では、金に困ってみすぼらしかったマウザーの姿はなく、華奢な体を何倍にも大きく見せるような曲芸まがいのプレーで会場の熱狂を受けながら勝利を収める。
冒頭で述べたように、マウザーは強いスター性を持つ人物。落ち目のケイがそのマウザーの中に希望を見出していくように見えるこのシーンは、シャラメのスター性、野蛮性、トリックスターとしての魅力が爆発し、その魅力で観客に夢見ることを思い出させていくという、本作で最もエキサイティングなシーンのひとつだ。
グウィネス・パルトロウ演じるケイ・ロックウェル(クレジット:A24)