随所に見られるサフディの尋常ならざるこだわり

 ニューヨークに生まれ育ち、幼少期にマンハッタンにある卓球場に通っていたサフディにとって本作は念願の企画だった。「ADHDだった自分には卓球がとても助けになった。強烈な集中力と精密さが求められるスポーツだ」と言っているように、サフディにとって自身と卓球は切っても切れない関係にあるようだ。

 また、サフディの大叔父は本作の舞台のひとつになる「ローレンス」という実在した卓球場に出入りしており、「ローレンス」でのリースマンの伝説について話してくれていたという。そこに、サフディの妻が古本屋で見つけたというリースマンの伝記本「The Money Player」をサフディが読んだことから、本作の企画が始まった。

 サフディのこの企画に対する思い入れは尋常ではなく、シャラメが演じるマウザーの勤務するロウワー・イーストの靴屋「Norkin Shoes」の表玄関を、1950年代にその店舗があった住所のビルにハリボテをつけて再現、その一角を完全に封鎖して撮影をした。

 ニューヨークの一区画をブロックするには、そこで営業する多く店舗の営業をとめることになるので、多くのケースでは別のロケ地を選んで、それに見立てるのだが、この場所でなくてはいけないというサフディの並々ならぬ思い入れが感じられる。

 現在のロウワー・イーストは、オシャレな若者のエリアだが、戦後直後はどちらかというと移民労働者が居住し働いていたエリアであり、その活気を表現することに多くの労力と予算が掛けられている。

 また、2時間半ある本作には約150人のセリフのある役があり、その一人ひとりも、かなりのこだわりをもってキャスティングしたという。ほとんど演技経験がない人から、ベテランの俳優まで多種多様な人種、顔、体格の人が登場する。人種の坩堝と言われるニューヨークだが、本作に出てくる人たちをみるだけで、その混在する熱気が伝わってくる。

ロウワー・イーストに再現された靴屋「Norkin Shoes」(クレジット:A24)