豚とのキスをかけた最後の戦い
その華やかなスター性で観客を虜にするマウザーだが、形勢が悪くなると途端にイチャモンを付け始める。そのひとつが卓球の白い球と、多くの選手が着用している白いシャツとが保護色になって見えないから自分は負けたのだ、というものだ。
ただのイチャモンだけでなく、自分でオレンジ色の球を開発するのがまた愛らしいところなのだが、白い球以上にマウザーを悩ませるのが、宿敵の日本人選手エンドウが導入した表面にラバーを使用したラケットだ。
50年代に実在した日本人選手、佐藤博治はラバー・ラケットの先駆者として知られている。エンドウは佐藤を元に構想されたと思われるが、それまでは木製の盤面だったものが、ラバー製になったことで、球がラケットに当たる音が小さくなり、球種が読みづらくなったという。
このことにマウザーが文句をつけないわけがないのだが、結果は常にエンドウの勝利。マウザーはエンドウの壁を破ることができない。戦後間もない1950年代を舞台に、このような日米間のダイナミズムを導入することも本作の面白い点だ。
日本でプレーするマウザー(クレジット:A24)
本作のラストでは日本を舞台に、豚とのキスを賭けたマウザーとエンドウの直接対決が行われる。ここでもケーブルに引っ掛かって足を折りそうになっただの、試合は仕組まれただのとイチャモンを忘れないマウザーだが、ずる賢く、負けず嫌いで、自己中心的なシャラメ演じるマウザーの魅力は、このラストに至って最高潮に達する。世界中がシャラメの魅力にスマッシュを食らう日は近づいている。
※日本では3月13日より全国公開
元吉烈(もとよし・れつ)
映像作家・フォトグラファー
米ニューヨークを拠点に主にドキュメンタリー分野の映像を制作。監督・脚本をした短編劇映画は欧米の映画祭で上映されたほか、大阪・飛田新地にある元遊廓の廃屋を撮影した写真集『ある遊郭の記憶』を上梓。物価高騰のなか$20以下で美味しく食べられる店を探すのが最近の趣味で、映画館のポップコーンはリーガル・シネマ派。





