「W杯の共同開催は本当に可能なのか」
トランプ大統領は麻薬カルテルの存在を理由にメキシコへの地上攻撃を示唆する発言を繰り返しており、同国のクラウディア・シェインバウム大統領が当然のように激しく反発するなど両国関係は急速に冷え込んでいる。
昨年12月5日のFIFAワールドカップ組み合わせ抽選会で顔を揃えた開催国の首脳。左からカナダのマーク・カーニー首相、メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領、アメリカのドナルド・トランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)
メキシコはWBCの常連国であり、国際野球界において重要な存在だ。同国代表として次のWBCへ、ランディ・アロザレーナ外野手(シアトル・マリナーズ)が参戦表明。2023年の前回大会にも当時タンパベイ・レイズ所属から同国代表として参加したアロザレーナが、準決勝・日本戦で当時巨人の岡本和真内野手(現トロント・ブルージェイズ)が放った左翼ヘのホームラン性の当たりをジャンピングキャッチして“どや顔”を見せたシーンはあまりにも有名だろう。
他にもメキシコにはWBC代表メンバーの有力候補として、ジャレン・デュラン外野手(ボストン・レッドソックス)、アレハンドロ・カーク捕手(トロント・ブルージェイズ)、アンドレス・ムニョス投手(シアトル・マリナーズ)、アイザック・パレデス内野手(ヒューストン・アストロズ)、ルイス・ウリアス内野手(オークランド・アスレチックス)、ラモン・ウリアス内野手(ボルティモア・オリオールズ)らスタークラスの名前がずらりと並ぶ。この「スター軍団」がベネズエラ同様、一気にWBCへの参加が困難な状況となってしまったら大会そのものの開催も危うくなる。
それだけではない。もっと言えば、6月から7月にかけて開催されるサッカーW杯では、米国、カナダと並ぶ共同開催国として、メキシコ国内3都市が試合会場に組み込まれている。主開催国である米国のトランプ大統領がサッカーW杯の補助開催国メキシコに対し、武力行使をちらつかせる――。この異常な構図は、スポーツイベントの前提そのものを揺るがしている。
「本当に共同開催が可能なのか」
サッカー界の関係者の間でも、そんな声が聞こえ始めている。現地時間6月11日の開幕まで残り約5カ月に迫っていることで大会はすでに動き出しており、スタジアム整備、警備計画、国境をまたぐ移動動線など、準備は膨大だ。そこに政治的緊張が加われば、リスク管理は飛躍的に難しくなる。
国際大会は、世界が注目するがゆえに常に安全保障と隣り合わせだ。政治的に不安定な国が代表として参加する大会、あるいは政治的対立を抱えた国の都市で試合が行われること自体が、リスクとして議論されるようになっている。「テロ」という言葉がささやかれるのも、決して過剰反応ではない。世界の耳目が集まる舞台は、反体制派にとって格好のアピールの場となり得るからだ。
WBCも、サッカーW杯も、本来は国境や政治を超えて人々を結びつけるための大会である。しかし今それらは、国際政治の地殻変動に巻き込まれつつある。ベネズエラ、メキシコ――そして今春のWBCにも参加を予定している大会常連参加国の強豪キューバも、米国のマドゥロ大統領拘束を激しく非難している。それぞれ状況は異なりながらも、共通しているのは「米国との政治関係」がスポーツの行方を左右しかねない段階に入っているという事実だ。
今年のWBCで最も注目すべき国はどこか。急展開の末、その答えは「ベネズエラ」へと傾いた。そして、その先には、サッカーというさらに巨大な舞台が控えている。スポーツはどこまで政治と距離を保てるのか。その問いは、もはや理念ではなく現実の問題として突き付けられている。
国際大会は世界が一つになる象徴であると同時に、分断を映し出す鏡でもある。野球やサッカーが、国家の思惑を超えて希望を示せるのか。それとも、時代の荒波にのみ込まれていくのか。WBCとサッカーW杯を巡る不穏な空気は、スポーツの未来そのもののあるべき姿を問いかけている。


