ベネズエラ国内の情勢は、そうした国際的な緊張を映し出すかのように不安定さを増している。大統領権限代行に就任したデルシー・ロドリゲス副大統領による暫定政権は、米国のドナルド・トランプ大統領との協調路線を模索しつつ、国内に残る反米・旧体制派への配慮も迫られるという二正面対応を余儀なくされている。治安、行政機能、統治機構のいずれもが過渡期にあり、短期間での安定を見通す声は決して多くない。
この不確実性を、最も警戒しているのがメジャーリーグ機構(MLB)である。現在、メジャーリーグのロースターには60人以上のベネズエラ出身選手が在籍しており、彼らは単なる「外国人選手」ではない。チームの中核を担うスター選手が多く、リーグの競技的価値、興行的価値の双方に深く関わっている。
MLBスター選手の参集が見込まれるWBCベネズエラ代表
実際に今春のWBCベネズエラ代表メンバーは現時点で未発表ながらも、同国メディアの間からは3大会連続出場中で2021年本塁打王&打点王のサルバドール・ペレス捕手(カンザスシティ・ロイヤルズ)を中心に、ホセ・アルトゥーベ外野手(ヒューストン・アストロズ)、ロナルド・アクーニャJr.外野手(アトランタ・ブレーブス)らMLBスターの名が昨季終了直後の時点から続々と有力候補者として報じられている。
ベネズエラメディアの間で同国スター選手の具体名が早々と挙げられ、代表入りを促されている理由には、次のWBCで世界一連覇を掲げる日本の侍ジャパンや覇権奪回を目論む米国、そして2013年の第3回大会を全勝で完全Vを成し遂げたドミニカ共和国などが「最強メンバー」の招聘に動いていることも背景にあるだろう。
2023年のWBCに出場したベネズエラ代表。準々決勝まで駒を進めた(写真:UPI/アフロ)
一方で米軍による軍事行動が報じられた直後、MLB各球団では水面下でベネズエラ人メジャーリーガーたちに対し、緊急の連絡網が張り巡らされたとされる。選手本人はもちろん、家族や親族の安否確認、国内に残る資産や住居の状況、渡航制限の可能性――。
マドゥロ氏の拘束は短時間で終わったとはいえ、後のベネズエラ側の発表によれば米軍の軍事作戦によって民間人を含め「100人以上が死亡した」ことからも、MLB側の抱いた前記のような不安要素は相当なものだったと推察される。
フロント関係者の一人も「母国の危機によって2月中旬から始まるスプリングトレーニングどころではないと考え、所属球団への合流を見送る選手が出ても不思議ではなかった」と振り返る。