トランプの目はメキシコにも

 WBCへの影響は依然としてくすぶり続けており、さらに深刻だ。代表チームの編成にはビザ取得、渡航許可、政府間の事務手続きが不可欠であり、そのいずれもが政治情勢に左右される。過去にも、ベネズエラの若年層代表が米国入国を拒否された例があり、政治と野球の軋轢は決して新しい問題ではない。今回の軍事介入は、その緊張を一段引き上げたと見る関係者は多い。

 あるMLB関係者は匿名を条件に、こう本音を漏らす。

「WBCはMLBが主導する大会だが、だからこそ政治的な影響を強く受ける。もし渡航制限や安全上の懸念が現実化すれば、参加の是非を巡って非常に難しい判断を迫られる。私自身もそうだが、実際のところMLB上層部の大半はアメリカによるマドゥロ大統領拘束を支持していない。MLBだけでなくスポーツ全体の観点から見ても、トランプ大統領はパンドラの箱を開けてしまったと言えるかもしれない」

 現場の選手や指導者は、政治と距離を保とうとする。前回大会に続きベネズエラ代表を率いる予定のオマール・ロペス監督(ヒューストン・アストロズベンチコーチ)が米有力紙「ニューヨークタイムズ」傘下のスポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」に語った「私たちは悪者ではない。ただ野球をしたいだけだ」という言葉は、混迷する国情の中で競技に集中しようとする切実な思いを象徴している。

 しかし、理念としての「スポーツの中立性」は、現実の国家行動の前ではあまりにも脆弱だ。

 懸念は、ベネズエラにとどまらない。米国の強硬姿勢はキューバとの関係をさらに悪化させ、そしてメキシコへと視線を向け始めている。