ヘルン言葉

 ドラマの松野トキと同じく、セツも英語をまったく解せなかった。

 ハーンも日本語は片言しか話せなかったため、二人は「ヘルン言葉」を作り出した。

 ヘルン言葉とは、日本語の単語や慣用句から助詞(てにをは)を抜き、動詞・形容詞の活用はなく、語順は英語という、セツとハーンだけの秘密の言葉である。

 ヘルン言葉によって、二人は意思疎通をはかり、絆を深めていった。

鳥取の布団

 ハーンは日本の古い伝説や民話などを研究し、それらを作家として英語で表現し、欧米の読者に紹介したいと考えていた(高瀬彰典「文豪ハーンの妻 小泉セツ」『国際社会で活躍した日本人』植木武編 弘文堂所収)。

 ハーンは結婚した翌日からセツに、「お伽噺でも、怪談でも、伝説でも、何でもよろしい。面白い話をしてください」と頼んだという(根岸磐井編著『出雲における小泉八雲 再改訂増補第10版』所収 小泉一雄「亡き母を語る 父八雲の協力者として」)。

 セツがハーンに最初に語った物語は、『鳥取の布団』だった。鳥取出身のセツの最初の夫・前田為二から聴いた怪談である。

 この怪談はドラマでも、松野トキの最初の夫・寛一郎が演じる銀二郎が語っている。

 幼い頃から物語好きのセツは、語り部としての才能に恵まれていた。

『鳥取の布団』をセツが語ったことがきっかけで、ハーンはセツが作家活動の助手となり得ることに気付き、狂喜している。

 以後、セツはハーンの作家活動を支える語り部として、彼が喜びそうな話を探し出しては、ハーンに伝え、数々の名作を生み出していく。