韓国自動車メーカーにレアメタルを安価に輸出?

 経済安全保障の観点では、今回の措置は「想定内」の範疇にあります。

 日本は2022年に経済安全保障推進法を施行し、半導体、蓄電池、重要鉱物、医薬品といった特定重要物資のサプライチェーン強靭化を進めてきました。2023年には日米蘭で足並みを揃えて先端半導体製造装置の対中輸出規制を導入しています。中国がこれに対抗して輸出管理を強化することは当初から織り込み済みでした。むしろ「いつ来るか」の問題だったのです。

 このカードは、早く切り過ぎると大事なところでレアアース抜きの技術開発が進んで対応可能になってしまって効果がないし、遅く切り過ぎても実効性が伴わない規制になってしまいますから、中国も対日牽制だけでなくレアアースを握っているカードをいかに高い価値に吊り上げるかに腐心している、とも言えるのです。

 もっとも、先般のアメリカ大統領トランプさんの訪中で、習近平さんに「レアアースの輸出を止めますよ」と言われた瞬間に対中関税交渉の矛を収めてしまうなど、カードとして強烈であることは確かです。それでも、日本としては取り組まざるを得ない、というのが中国依存を減らす経済安全保障体制の確立だよ、という話になります。

 日中間の経済デカップリングは、完全な切り離しではなく、リスクの高い分野から段階的に依存度を下げていく「デリスキング」として進んでいます。今回の措置で困るのは確かですが、意外感はありません。サプライチェーンから中国を外していくという方向性は、日本だけでなく欧米でも共通認識になっています。

 問題は、その移行にどれだけの時間とコストがかかるかです。

 外交的な文脈で見ると、今回の公告は台湾有事に向けた地ならしの一環と読めます。興味深いのは、公告が出た1月6日の前日、習近平さんが韓国大統領の李在明さんと北京で会談し、「中韓両国は日本軍国主義と戦った第二次大戦の成果を共に守るべきだ」と発言していることです。

 大きなお世話だと思いますが、日本を名指しで牽制しつつ、韓国を取り込もうとする外交的布石が打たれた翌日に、この輸出規制が発表されました。偶然のタイミングとは思えません。言い方は悪いですが、韓国に安いレアメタルを出して韓国の自動車会社を日本勢に対して優越させてあげますよ、という取引があった可能性さえもあるのです。

 一方で、中国経済もいま厳しい局面にあります。

 不動産セクターの不良債権問題は深刻化し、シャドーバンキングの破綻が相次いでいます。恒大集団や碧桂園の問題は、単独の企業の問題ではなく、中国の成長モデルそのものの行き詰まりを示しています。消費者物価は伸び悩み、若年失業率は高止まりし、デフレ経済への突入が懸念されています。

 内需が弱いなかで外需まで細らせる政策を、どこまで貫けるのか。ただでさえ国内経済の成長が止まり、長期的にも少子高齢化が日本以上に進むことがデフレが進む中国経済に暗い影を落としているのに、ここで重要な貿易相手国のひとつである日本との貿易を止めることは中国によるセルフ経済制裁とも認識されます。

 特に、豊富な埋蔵量を誇る中国のレアアースの枢要な何品目かは、世界的に問題視されている露天掘りであり、さらに採掘純度を上げる薬品を大量に投与し、どっかから安い労働者を連れてきて大量に掘り上げるというやり方でエブリデイロープライスを実現しています。

 競合国であるオーストラリアやチリ、アフリカ諸国などは問題視していますが、コスト的に仮に中国のほうが安かったとしても、これらの安定供給可能で信頼できる先に切り替えつつ体制を構築する必要があります。

 また、これらの中国レアアースの採掘地域はまあまあ内陸部であまり豊かではない地域で操業していることから、日本だけでなく西側諸国への取引を政策的に絞ると中国は中国で採算割れを起こし、第三国を使った闇レアアース貿易みたいなことが発生します。こ、これはどこから来たか分からないジスプロシウムが800kgもカザフスタンに!なんてことがあるかもしれません。