唾液の力を活かして社会実装へ
認知症の早期リスク診断はもちろん、特定のがんについても同様にリスクを診断できる技術、それも唾液1mlで実施できる非侵襲的な診断法は、多くの人にとっての福音となる。そのためには具体的なサービスとして提供し、多くの人に使ってもらう必要がある。
「順天堂大学でもスタートアップ創出の機運が高まっていて、私たちのプロジェクトが学内の第1号に選ばれました。おかげで資金援助を受けながら社会実装のためのサービス開発を進めています。具体的には軽度の認知症あるいはMCIを対象とするリスク検査サービスの提供を目指しています」
「これらは一般向けサービス、企業や健康組合などとパートナーとなり提供する福利厚生サービスなど、いわゆるD2C、B2B2Cとしての展開を考えています。唾液は医療従事者の負担なく採取できるので、たとえば地域の歯医者さんとパートナーを組み、歯科クリニックなどでサービスを展開することも目指しています」
歯科医で唾液採取する場合でも、特別な装置などが必要となるわけではない。小型の試験管があれば、それだけで唾液は採取できる。したがって検診クリニックをはじめ、薬局やオンラインショップでキットを提供し、唾液を採集して送ってもらうだけで、疾患のリスク結果を後日、レポートとして提供できる。
「社会実装としてもう一点考えているのが、プログラム医療機器、いわゆるSaMD(ソフトウェア・アズ・ア・メディカル・デバイス)としての提供です。診断支援ソフトやデジタル治療アプリなどがこれにあたります。我々は、唾液から取得したデータを活用して、神経変性疾患の診断支援も目指しています。マイクロバイオームを用いた診断支援技術はまだ国内で承認されたことがないので、非常にチャレンジングではありますがやりがいのあることだと思います」
スライド:久松氏提供
バイオマーカーとしての唾液の可能性は、大きく広がっている。わずか1mlで将来の疾病を予測できるようになれば、新薬開発の進行状況も併せて考えると、近い将来には認知症の発症を事前に抑えられる可能性も高まるだろう。
「唾液細菌で未来の医療をつくる」が久松氏のコンセプトである。このコンセプトの実現は、超高齢社会日本にとっての大きな救いとなるはずだ。
「Scienc-ome」とは
新進気鋭の研究者たちが、オンラインで最新の研究成果を発表し合って交流するフォーラム。「反分野的」」をキャッチフレーズに、既存の学問領域にとらわれない、ボーダーレスな研究とイノベーションの推進に力を入れている。フォーラムは基本的に毎週水曜日21時~22時(日本時間)に開催され、アメリカ、ヨーロッパ、中国など世界中から参加できる。企業や投資家、さらに高校生も参加している。
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竹林 篤実(たけばやし・あつみ) 理系ライターズ「チーム・パスカル」代表
1960年、滋賀県生まれ。1984年京都大学文学部哲学科卒業、印刷会社、デザイン事務所を経て、1992年コミュニケーション研究所を設立し、SPプランナー、ライターとして活動。2011年理系ライターズ「チーム・パスカル」設立。2008年より理系研究者の取材を開始し、これまでに数百人の教授取材をこなす。他にも上場企業トップ、各界著名人などの取材総数は2000回を超える。著書に『インタビュー式営業術』『ポーター×コトラー仕事現場で使えるマーケティングの実践法がわかる本(共著)』『「売れない」を「売れる」に変えるマーケティング女子の発想法(共著)』『いのちの科学の最前線(チーム・パスカル)』





