高精度な認知症予測モデルを構築
唾液マイクロバイオームを活用すれば、もう一点、高齢者特有の課題である、薬の飲み忘れ問題の解決につながる可能性もある。薬をきちんと飲んでいる人といない人を、唾液マイクロバイオームをチェックすれば見極められる可能性があるからだ。
このテーマに関しては『中枢神経系用薬服用の評価のための方法および装置』で2023年に特許出願、さらに『高齢者におけるスタチン特異的な唾液マイクロバイオーム変化』、『認知症患者におけるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が唾液マイクロバイオームに与える影響』をまとめた論文が2025年『Frontiers in Pharmacology』誌、『iScience』誌に掲載された*1。
「研究成果をもとに地方自治体、具体的には神奈川県南足柄市などと連携して認知機能検査の実証実験を進めています。いわゆる前向き試験として、年に1回、南足柄市に住む70歳以上の高齢を対象に、唾液の採取と認知機能テストを実施し、マイクロバイオームと認知機能の変化の相関を調べています。今年度で4回目になり、ボランティアの方をはじめ、南足柄市の担当のみなさまには本当に感謝しています」
「現在、認知症が疑われる場合は『ミニメンタルステート検査』というスクリーニング検査が国際的に使われています。これはたとえば『今日は何月何日ですか?』や『ここはどこですか?』などの質問からはじまり、質問者から提示された単語や物を覚えて回答してもらうというものです。この各質問の合計点数に基づいて認知機能の低下具合を判断します」
「ただし、この検査法は被検者の緊張具合や質問者の習熟度によっても結果にブレが生じてしまうことが知られています。これに対して唾液マイクロバイオーム検査では、認知症予測についての感度が0.94と非常に高い、すなわち認知症である人を見逃す可能性が極めて低くなっています」
唾液マイクロバイオームをバイオマーカーとして使うメリットは、もう一点、認知症の背景となる病気を分類できる点にある。異常なタンパク質α-シヌクレインの蓄積が原因で、レビー小体型認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症などを発症することがわかっている。
スライド:久松氏提供
「パーキンソン病は発症から5年以内であれば安定した治療効果が得られると言われています。ただしα-シヌクレインをバイオマーカーとした検査では、どの病気なのかを見分けるのはまだまだ難しい。ところが唾液マイクロバイオームを活用すれば、早期のパーキンソン病を含め、どの疾患かを見分けられる、すなわち早い段階から適切な治療を施せる可能性が出てきます」
「さらに、これらの前駆症状であるレム睡眠行動異常症の患者さんでも唾液マイクロバイオームが変化していることがわかりました。この睡眠障害はパートナーなどの指摘によって気づくことが多く、なかなか自分ではわかりません。将来的には、定期的に唾液マイクロバイオームを調べることで、未病の段階からその後の疾患への進展が予測できるようになるのではないかと期待しています。これらは順天堂大学医学部 脳神経内科(服部信孝 特任教授ら)との共同研究であり、いずれも世界初の成果で、つい先日特許取得し論文にまとめています」
*1:『Alteration of salivary Streptococcus is associated with statin therapy in older adults: a cohort study』『Acetylcholinesterase inhibitors considerably affect the salivary microbiome in patients with Alzheimer’s disease』