つまみに良いタコ頭の唐揚げと「羽田煮」
〈茹でタコ〉は山葵醤油もつくが、岩塩とゴマ油もあり、なるほどこう食べるのかと大納得。さらにそのタコ頭を細かくして揚げた〈タコ唐揚げ〉もからめた塩味が、ちょびちょびつまみに丁度よい。
左から〈茹でタコ〉、〈タコ唐揚げ〉
〈カワハギ煮付け〉は、水を入れない醤油と酒だけで、白身まで煮汁が沁みないようさっと濃く煮て、ゆっくり煮汁をかけまわして煮る関西風とは反対のせっかちな江戸前だ。
〈カワハギ煮付け〉
そこにやってきた漁師仲間らしい一人客が、私の食べているのを見て「それは羽田煮と言うんだ、うまいだろ」と話しかけてくる。さきほどの〈しじみ酒蒸し〉の話をすると「その通り。青森十三湖のもあるが、まあしじみはここのが日本一だな。しじみの有名産地の人が食べに来るんだ」と。
どれも料理割烹などとはちがう、魚を知り尽くしたうえでの素朴な漁師まかないながら、正鵠そのものなのがこの店の最大の魅力だ。
何事も積極的なマスターは3人の幼い子たちを連れて行った奄美大島で「奄美ふるさと100人応援団」に加わり、この島を応援するようになった。その縁で置くようになった〈奄美大島産おすすめ〉3種の〈もずく天〉は、衣はほとんど無しに水気は消えてふわりと軽く、芯は粘り気が残って香り立ち、もずくは酢の物だけと思っていたがこういう食べ方もあるんだ、この人はほんとうに料理がうまいんだと感嘆する。まだいただいていないが〈焼鳥各種〉や〈ハゼ・アナゴ天〉〈餅ピザ〉、〈納豆チャーハン〉やなんだかわからない〈キャベツ角切り〉などもきっとおいしいのではないか。
奄美大島産の〈もずく天〉
店はご夫婦でやっていて、奥様は料理運びや片づけ。マスターは料理担当で、手があくとこちらに座り、酒はやめたとかで飲んでいないが客の相手になるのが好きなようだ。都心から便利とは言えない場所で、漁仲間の寄り合い所くらいでいいやと始めたが、それゆえか、若い人もふくめた色んな常連がつくようになったというのがおもしろい。
落書きサインや写真コーナーなどは、客が自分の家化しているようだ。芸能関係の人もいるらしいのは、居酒屋居酒屋した店とはちがう、自分に帰って普通の家庭にお邪魔するような居心地がいいのだろう。奥の洗面所のドアや、中に飾る絵、ポスターなどが、マスターの幅広い関心を感じさせるのも発見だ。
そしてもうひとつの嬉しさは、働く両親と居たくて、店でうろちょろしている幼い三人娘だ。かわいいなあ。いちばん上はもう中学生で、おじさんの私を相手にしてくれなくなったのはチト淋しいが仕方がない。オミヤゲ持って来たけどなあ。
マスターの鈴木弘次さんと
ここまで読んで訪ねてみようかと思った方にお願い。この店は、家庭にお邪魔して飲む良さだ。決してどやどや行ったり、客顔で偉そうにするなどはしないでもらいたい。そういう人は来てほしくない。自分の中にある温かい心をそのままに、一杯傾けられるのが最大の良さだからだ。
ここを出て駅に向かう夜道はいつも幸福感でいっぱいだ。
「竹の子」
住所:東京都大田区羽田4-4-20
TEL:非公開
営業時間:18時〜23時
定休日:日曜日
(編集協力:春燈社 小西眞由美)







