現場を知り尽くしている日本の利点

 日本はロボットの現場を知っている国であるという事実です。

 カイゼン、トヨタ生産方式、QC活動・・・。

 これらはすべて現場で働く人たちの知恵と経験から生まれたものです。
机上の理論ではなく、リアルな現場の肌感覚を尊重する文化こそ、日本のものづくりの核心でした。

 そしてフィジカルAIの世界は、まさにその現場力を必要としているのです。ロボットを本当に機能させるには、AIモデルが優秀であるだけでは不十分です。

 湿度で変わる素材の質感、作業者ごとの癖、日ごとに変化する温度条件、道具の微妙な滑り具合。

 こうした現実世界の理不尽さを理解し、チューニングし続ける能力が不可欠です。

「ロボットは結局、人と同じで現場を知らないと動かせないですよ」という言葉を何度も工場の現場で聞いてきました。この視点は本質的です。

 そして、この本質に適応できる国は実は多くありません。

 ここで、ハードウエアだけでなくソフトウエアのことも知らなければならないでしょう。

 日本の歴史的資産として特に重要なのがTRON(トロン)です。TRONは単なる組み込みOSではありません。

 1980年代から続くプロジェクトであり、世界の組み込み機器の裏側を支えてきた存在です。

 特に象徴的なのは、かつて日本の携帯電話、いわゆるガラケーの多くでTRON系OSが採用されていたことです。