日本が再び世界の主流に戻れる日

 ただ作業をするのではなく、動線の工夫、温度管理、素材の癖、人の疲労具合まで見ています。

 AIはまだここまでの総合的理解は持てません。だからこそ、その知見をAIに教えるプロセスに、日本の価値が宿ります。

 フィジカルAI時代のロボットは、米国のAIが知能を担当し、日本の技術が身体と制御を担当し、そして日本の現場が運用最適化を担う。

 そんな協調モデルが現実味を帯びています。経営の視点から見ても、この構造は非常に合理的です。そして実現可能になります。

 AIの世界は、資本力だけが勝敗を決めるわけではありません。現場を理解した国が勝つ。人の動きを理解した文化が勝つ。人に寄り添う抽象化ができる技術が勝つ。

 私はその意味で、日本が十分に活躍できる舞台が整いつつあると感じています。

 日本の技術文化は、一見地味で、不器用に見えることがあります。しかし、現実世界で強い技術とは、まさにこの地味さや丁寧さの中に宿るものだと思っています。

 TRONが何十年も息長く使われてきた理由も、Rubyが世界で愛された理由も、そして日本の工場が世界を支えてきた理由も、すべてこの一貫した価値観に根ざしています。

 フィジカルAIは、まさにその価値観が最も求められる時代です。日本はその時代の中心に戻る可能性を秘めています。

 私はその未来を悲観せず、むしろ大いに期待しています。日本が再び主役を張る日が、着実に近づいていると感じているからです。

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