陸上養殖した魚のブランド化が広がる

 陸上養殖で最も飼育の盛んな魚種の1つがサーモンです。サーモンといえば、寒冷地の魚ですが、陸上養殖の世界ではサーモンは寒冷地だけのものではありません。

 国立研究開発法人「水産研究・教育機構」瀬戸内海区水産研究所が2018年時点でまとめた資料によると、陸上養殖によるサーモンとマスのブランドはその時点で「霧島サーモン」(鹿児島県)、南国サーモン(熊本県)、愛南サツキマス(愛媛県)、広島レモンサーモン、ふくいサーモン(福井県)、江戸前銀鮭(千葉県)、海峡サーモン(青森県)など全国に広がっていました。その数、およそ80ブランドに達しています。

 こうした事業には、地元の漁業者だけでなく専門業者や異業種も関わっています。陸上養殖を手掛けるFRDジャパン(さいたま市)は、千葉県木更津市の山あいにある閉鎖循環式の陸上養殖施設で育てたサーモンを「おかそだち」というブランド名で販売中。事業をさらに拡大するため、年間生産量3500トン規模のプラントを建設中です。

 また、ノルウェー資本のプロキシマシーフードは、富士山麓の静岡県小山町に世界最大規模となるアトランティックサーモンの閉鎖循環式施設を2024年に建設。年間生産量5300トンを目指して操業を開始しました。

 水産庁のまとめによると、陸上養殖の届け出件数は2025年1月時点で740件を数え、前年より78件増加しています。種類別では、クビレズタ(海ぶどう)165 件、ヒラメ126 件、クルマエビ107 件、トラフグ93 件の順。都道府県別では、沖縄県186 件、大分県54 件、鹿児島県34 件と九州地方が上位に並んでいます。

 一方、注目されるのは「海なし県」です。

 岐阜県には海がありませんが、届け出件数は32件と全国4位。そのなかでも同県飛騨市の「飛騨とらふぐ」は、ブランド化の成功例として知られています。近畿大学から譲り受けた稚魚を飛騨の山中でミネラル豊富な地下水を利用して閉鎖循環式陸上養殖で養殖。体長5cmほどの稚魚は1年後に約30cmの成魚となり出荷されます。

 同じく海のない県では、栃木県の「温泉とらふぐ」、埼玉県の「温泉サバ」などが商品化されています。海のない県でも魚介類の水揚げが可能という、画期的な技術。それが全国に広がっているのです。