サーモンなどの陸上養殖が広がっている=写真はイメージ(写真:Shpatak/Shutterstock.com)
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海や川から離れた場所で人工水槽などを用意し、高級魚や希少魚介類を育てる――。そんな「陸上養殖」が脚光を浴びています。技術の発展によって水温・水質管理が容易になり、外部環境に左右されない安定生産ができるようになってきました。海や川とは無縁な内陸部でも生産可能なうえ、漁業権がなくても参入できることから異業種からの参入も活発になっています。全国各地に広がる「陸上養殖」の今を、やさしく解説します。

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陸上養殖には「かけ流し式」と「閉鎖循環式」がある

 水産庁によると、陸上養殖とは「陸上に人工的に創設した環境下で養殖を行う」仕組みです。海や内水面(川や湖沼など)を使わず、それらから離れた陸上に養殖設備を構えることから、この呼び名が付きました。

 陸上養殖には、主に「かけ流し式」と「閉鎖循環式」があります。

「かけ流し式」は海や川などの天然環境から水を継続的に施設内へ引き込み、魚介の飼育水として使用する方式です。天然の水を常に循環させるため、いったん稼働すればランニングコストが低価で済むほか、新鮮な水の循環により病原菌が入りにくいというメリットもあります。

 ただ、取水・排水に要する距離などを考慮すると、かけ流し式の陸上施設は海や内水面の近くに設置することが必須。天然の水環境から離れた場所では実現が困難というデメリットがあります。

 これに対し、海や川の水を使用しない陸上養殖が「閉鎖循環式」(RAS: Recirculating Aquaculture System)です。陸上の施設で飼育水をろ過・浄化して循環利用し、外部環境の影響を受けずに高密度で魚介類を育てることが可能。台風などの自然災害の影響を受けることもありません。水質や水温を完全にコントロールできるため出荷時期の調整も容易で、安全で安定的な生産が可能です。

図表:フロントラインプレス作成

 近年脚光を浴びているのは、この「閉鎖循環式」です。

 高度な技術と環境管理が必要ですが、自然界に存在する赤潮や病原菌などの悪影響を受ける恐れがほとんどないというメリットがあります。さらに「漁業権が不要で事業着手のハードルが低い」「天候に左右されない」「場所を選ばない/遊休施設を活用できる」「成長が速い」といったメリットも。

 土地さえあれば、どこにでも事業展開ができるため、消費地近くに生産拠点をつくり、輸送コスト低減や鮮度保持、安定供給などを図ることができるのです。

 この閉鎖循環式のマーケットはどの程度の規模があるのでしょうか。

 市場調査の富士経済によると、閉鎖循環式陸上養殖の水産物の国内販売は、2024年実績で4700トン・293億円。これが2025年には前年比5割増の7300トン・455億円になり、5年後の2030年には2万6500トン・1700億円の規模にまで拡大するとの見通しを示しています。毎年、前年比で3割程度ずつ拡大していく計算です。

 では、実際にどんな魚介が生産されているのでしょうか。実例を見てみましょう。