三重県熊野市にある「食堂あお」の刺身(写真は筆者撮影、以下同じ)
新型コロナ禍で一時は壊滅的打撃を受けたインバウンド市場だが、コロナ後は一気に回復。訪日観光客は年間4000万人に迫る勢いで、その消費額は8兆円に上る。一方で有名観光地のオーバーツーリズムが問題となる中、いま注目するべきは「地方の食文化」だという。食と文化を体験する旅を提唱する「日本ガストロノミー協会」会長の柏原光太郎氏が解説する。(JBpress編集部)
「まだ知られていない場所での体験型観光」が人気
「富裕層」というと、みなさんはどういうイメージをお持ちになっていますか。ハイブランドで全身を固め、銀座のクラブでシャンパーニュを空け、豪華なホテルを泊まり歩く──そんな人々を想像したとすると、ちょっと時代に遅れてしまっているかもしれません。
いまの富裕層、特に30代、40代で自身の事業の上場や株式売却、外資系投資銀行やプライベートエクイティ勤務、暗号通貨などで財産を築いた「新富裕層」と呼ばれる人々は、わかりやすいお金の使い方はかっこ悪いと考えます。
彼らが価値を見出すのは、まだ人々が知らない、行っていないところをいち早く訪れたり、体験したりして、それを発信することで、インフルエンサーやエバンジェリスト(トレンドや技術を啓蒙する発信者)になることなのです。
たとえば、富裕層マーケティングで有名なコンサルティング会社「ベイン・アンド・カンパニー」が2024年秋に出した「グローバル ラグジュアリー市場レポート」によると、彼らが求めているものは、物品よりもホスピタリティや高級レストランなどの体験型サービスに集中しているといい、高級ホテルを展開しているマリオットグループの「食の未来2025」レポートによると、新たな富裕層が旅に求めるキーワードは、誰も見つけていないものを見つけたり、新しい知識を得ることで、オリジナルなビジネスを作り出すことだとしています。
このような人々にいま、刺さっているのが「ガストロノミーツーリズム」です。ツーリズム(観光)はご存じでしょうが、ガストロノミーはまだ聞き慣れない言葉かもしれません。19世紀のフランスからポピュラーになり始めた言葉ですが、「食を文化として味わおう」という意味だと私は解釈しています。この二つがつながることで、食文化を体験する観光という意味になるわけです。
しかしいま、なぜガストロノミーツーリズムが注目されているのか。それはインバウンドの増加と関係があります。
