「制裁」と明言しない曖昧さこそ中国の経済的威圧の核心

 オーストラリアの研究者らは「こうした曖昧さこそが中国の経済的威圧の核心。制裁であると明言しないことが制裁の実効性を高めている」と指摘する。曖昧さは標的国の反撃コストを引き上げ、標的国の国内分断をもたらし、ルールなき恐怖を常態化させる狙いがある。

 次に中国は自国に跳ね返る自傷コストを最小限に抑えるよう手段を限定する。中国の経済的威圧は全面的な貿易戦争や包括的制裁ではなく、中国側に代替手段が存在する分野に集中する傾向が強い。フィリピン産バナナを制限してもベトナムやラオスから調達できる。

 オーストラリア産石炭やワインを締め出してもインドネシアや南米が代替供給地となる。日本への渡航自粛を呼びかけても中国人観光客の消費は他国や国内に振り向けられる。中長期の副作用は無視できないものの、短期的には旅行収支面では資金流出が抑えられる。

 中国は自らの経済的痛みを最小化しながら、標的国にだけ不均衡な損失を与えるよう制裁は設計されている。日本産水産物輸入の事実上の再停止、渡航自粛の呼びかけ、日本アニメ公開・コンサート中止も「低コスト・高効果の威圧」を計算して発動されている。