中国の「お仕置き部屋効果」を高めてしまうトランプ政権による同盟の「ディール」化

 トランプ政権の新国家安全保障戦略は同盟国やパートナー国に対する「負担移転」を明確に打ち出した。同盟が「ディール(取引)」化すると標的国は「米国が最後まで守ってくれるのか」と疑い始め、自粛に傾きやすくなり、中国のお仕置き部屋効果が高まる条件が整う。

 しかし欧州連合(EU)は経済的威圧に対抗する枠組みを整備し、威圧の認定、協議、対抗措置の手続きを明確化している。経済的威圧は短期には効いても、長期的には標的国世論を「反中」で結束させ、対中デリスキング、防衛強化、制度整備を促すきっかけになる。

 トランプ政権の新国家安全保障戦略は中国を「倒すべき敵」ではなく、世界経済の不均衡を生む「巨大な構造問題」として扱う枠組みに転換した。その一方でインド太平洋や経済安全保障での対中抑止、台湾問題の大枠は維持した。米国が完全撤退すると決まったわけではない。

 中国はチベットや香港で成功した現状変更の常態化(サラミ戦術)を台湾にも当てはめようとしている。中期的に日本は日米同盟をEU、英加豪との協力強化で補完し、中国の優位を弱める必要がある。お仕置き部屋外交の被害国を孤立させない枠組みと対抗手段の構築が急務だ。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。