アートの要素を持つ患者との意思疎通
──先生は医療の現場の中にある、さまざまな限定されたコミュニケーションについて長年分析されています。こうしたテーマは半ば芸術や哲学といった要素を含んでいるようにも感じます。
西村:今私は東京都立大学で教えていますが、以前は大阪大学のコミュニケーションデザイン・センター(CSCD)にいました。そこには、ダンサー、劇作家、絵本作家などさまざまなタイプの芸術家がいました。

フランスで現象学を発展させた哲学者のモーリス・メルロー=ポンティは『眼と精神』という本も書いており、この本の中で画家がどのように絵を描いているかについて分析しています。私はこの本からかなり影響を受けています。
ですから、哲学の中でもとくに現象学、その中でもとくにアートに関わる表現の部分から影響を受けているのかもしれません。
私たちが自覚できていない出来事について、どのように私たちが経験した通りに記述して理解するか。通常私たちが書く科学論文では、こうしたテーマを扱って表現することはなかなか難しい。一定の分量で書ける本という形だとやはり扱いやすいです。
西村 ユミ(にしむら・ゆみ)
東京都立大学健康福祉学部看護学科教授、看護師
1968年,愛知県生まれ。東京都立大学健康福祉学部看護学科教授。看護師。日本赤十字看護大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。著書に『医療とケアの現象学』(編著)、『急性期病院のエスノグラフィー』(共著)、『語りかける身体』、『看護実践の語り』、『看護師たちの現象学』など。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。