誰が盗聴しなぜメディアに流出したのか
本項は、中央日報日本語版「トランプ・プーチン外交側近の通話流出スキャンダル…背後に挙げられた3つの勢力」(2025年11月18日)を参考にしている。
(1)ウォール・ストリート・ジャーナルの報道内容
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は11月26日、通話内容が流出した件につき、ロシア政府、米国情報当局、欧州情報機関など、複数の可能性があると報じた。
ロシアのウシャコフ大統領補佐官は、ロシアメディアのインタビューで、通話当事者から流出した可能性を否定し、「WhatsApp(ワッツアップ)」で交わす特定の会話は、一般的に誰でも手段を選ばなければ盗み聞きすることができる」と述べ、盗聴の可能性を示唆した。
第1の可能性は、ロシアが自ら通話内容を流した可能性がある。
ある欧州関係者はWSJに対して「ウィトコフ氏がロシアの手の中にあることを示すための、ロシア的な権力誇示の可能性がある」と語った。
また、ウクライナ戦争で利益を得ているロシア政府高官が、終戦協議を頓挫させるため通話内容を流出させた可能性もある。
これに対してウシャコフ氏は「誰かが流出させ、誰かが盗聴しているが、我々がやったことではない」と述べ、ロシアによる「自作自演」の可能性を強く否定した。
第2の可能性は、米国情報機関背後説だ。
元米情報当局の高官はガーディアン紙に対して「こうしたことができる組織は2つしかない。CIA(中央情報局)とNSA(国家安全保障局)だ」と語った。
ロシアに一方的に有利な終戦案が締結されることを懸念した内部関係者が、意図的に通話記録をメディアに流したという推測だ。
第3に、欧州情報機関が関与した可能性も否定できない。
欧州主要国は、米国が作成した草案がロシアに有利に傾いていると批判してきた。
別の欧州安保関係者もWSJに対して「ウシャコフ氏が一般的な携帯電話回線を使っていた」とし「世界中の数十カ国が彼の通話を盗聴できる技術力を持っている」と語った。
ウシャコフ氏も「欧州はウクライナ平和プロセスに全く必要ない形で介入している」と述べ、欧州が終戦案草案に異を唱えたことを批判した。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)所属のロシア専門家エミリー・フェリス氏はWSJに対し、「誰が通話を流出させたにせよ、この事件は戦争と外交全般に混乱と不確実性を加えたものであり、それはロシアにとって悪くない状況だ」と語った。
(2)筆者コメント
上記のウォール・ストリート・ジャーナルの報道は、ロシア、米国、欧州の政府の情報機関の可能性を示唆しているが、一般に情報機関は、情報収集能力や情報源を秘匿するために収集した情報を公表しないとされる。
後述するが筆者は、今回の流出については「WhatsApp」の脆弱性を突いたサイバー攻撃の可能性も考えられるので、民間のハッカーがサイバー攻撃により窃取した通話記録をウォール・ストリート・ジャーナルに売った可能性もあり得ると見ている。