最も有効な物価高対策は円高誘導

 そもそも、問題なのは物価高である。すでに日本は、潜在成長率を上回るインフレが定着して久しい。それを和らげる最も有効な手立ては、利上げによる円高誘導にほかならない。円高にすることで輸入を増やし、総供給を伸ばすことで、インフレは安定する。減税や給付金で需要を刺激すれば、かえってインフレがひどくなるのは明白だ。

 ヨーロッパ諸国がコロナショック後の急速な景気回復の過程で通貨高誘導を図ったのは当然の動きだった。ヨーロッパの場合、ロシアからのエネルギー、特に天然ガスの供給が途絶えたこともあり、歴史的な高インフレを経験した。ゆえに、まずは需要を抑制するとともに、通貨高に誘導して総供給を伸ばすことでインフレ抑制を図ったのだ。

 それにヨーロッパ諸国は、財政を幅広く拡張することなく、電力料金の引き下げなどピンポイントな支援にとどめた。彼らのマクロ経済運営に問題がないわけではないが、物価高対策やスタグフレーション対策の観点からは学ぶべき点が多い。彼らの経験からしても、日本が目指すべきは健全財政と利上げによる通貨高誘導と言えるだろう。

円の実質実効為替レート (出所)国際決済銀行

 日本の場合、通貨の総合的な価値を意味する実質実効為替レートは、この10年で最高値から4割近くも低下している(図表2)。これで競争力が改善したなら、日本はもっと景気が良くなっているはずだ。むしろ購買力の悪化が勝っているからこそ、国民の生活は物価高に喘いでいる。需要刺激と円安の関係を、今一度きちんと整理すべきである。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。