経常収支の黒字は本当に円高圧力なのか

 日本は経常収支が黒字であるから円の価値は毀損されないという主張もある。確かに経常収支は黒字だが、その黒字を稼いでいるのが円高圧力にならない第一次所得収支であることが指摘されて久しい。これは海外への投資から得た収益を意味するが、それは主に海外での再投資に用いられるため、円高圧力にならないとされる。

 日本は世界最大の債権国であるから円の価値は毀損されないという主張もある。実際、日本の対外純資産はドイツに次ぎ世界で2位の規模を誇る。ただ、そうした対外債権から生まれる収益は、先に述べたように海外での再投資に用いられるため円高圧力にはならない。経常収支や対外資産に立脚した主張は現実と乖離している。

 1980年代までの日本のように、金融取引がまだそこまで発展していない状況なら経常収支などの実需要因で為替レートの動きを説明できた。現代でも、新興国の為替レートを説明する際には、実需要因による説明はまだ有用である。一方、今の日本では実需につながらない金融取引が増えており、円相場はそちらに強く影響されている。

 金融緩和や財政拡張で需要を刺激することを重視する論者は、整合性が取れない主張を展開することも多い。現状の日本経済はスタグフレーション気味なため、需要を刺激することは問題の解決にならないばかりか、むしろ問題を悪化させる。そうした展開を織り込んでいるからこそ、投資家は国債を売り、円を売るのだ。