円買いにつながるのはあくまでも“良い金利上昇”
一般に為替レートは、短期的には金融要因(金利差)で、長期的には実需要因(貯蓄差)で決まると説明される。一方、通貨の価値の安定は財政が健全に運営されているかどうかによって大きく左右される。公的債務残高が多くても、財政が健全に運営されていると判断されれば投資家は国債を購入する。その結果、長期金利は低位にとどまる。
金利上昇で通貨が買われる場合、それは金融引き締めで政策金利(短期金利)が上昇した場合と、将来的な経済成長を期待した“良い金利上昇”の場合だ。しかし大量の国債発行による大型補正が発表された後の金利上昇は、財政の健全な運営が脅かされるとの警戒感から生じたもので、典型的な悪い金利上昇だから円高圧力にならない。
高市政権の経済アドバイザーの一部は、為替レートの決定要因における政策金利と長期金利の違いを正しく認識していないか、あるいは長期金利に良い金利上昇と悪い金利上昇があることを意図的に無視しているのだろう。いずれにせよ、財政拡張に伴う金利上昇が円高圧力になるという主張は、理論的にも経験的にも誤っている。
むしろ財政拡張に伴う金利上昇は、通貨安圧力になっているケースがほとんどだ。例えばアルゼンチンであり、トルコといった通貨がぜい弱な国がそれに相当する。曲がりなりにも先進国である日本と新興国であるアルゼンチンやトルコを単純に比較することはできないが、日本の国力が揺らいでいることは確かで注意すべき状況と言える。
成長戦略が軌道に乗り、経済成長が加速すれば円相場は円高に向かうという主張についても、その結果は不透明である。一般に、需要は刺激しやすいが供給は刺激しがたい。成長戦略を描く国は数多あるが、本当に軌道に乗ったケースは稀だ。アルゼンチンやトルコも、まさにそうした理屈で財政を拡張し続けて、通貨の価値を棄損してきた。