理想の60パーセントくらい
リンクサイドでいつも見守る中野園子コーチも、愛情をどこかに感じさせつつ、厳しく坂本について語る姿はいつものシーズンと変わらない。
NHK杯のフリーでの好演技に対しても、こう言う。
「まずまずはよかったですけれど、たくさん課題はあります。理想の60パーセントくらいです」
演技後半の滑りのスピードを最大の課題とし、こう話す。
「走り込んで、滑り込んでもっと体力をつけさせたいです。後半のスピードが出ないと感動させられないので」
例年よりは「怒ることは少ない」と言う。引退するからではなく、「怒らなくてもやってほしいですから」。
それでも、次の言葉には集大成を飾らせたいという思いがあった。
「(フリーの『愛の讃歌』は)かなり難しいプログラムなので、悔いの残らないようにやってほしいと思います。これからもっと上がっていくと思いますし、最後に完成したものをお見せしたいです」
坂本も、『愛の讃歌』の難易度は自覚する。それでも中学生だった2014年、ソチオリンピックで観た鈴木明子の演技に、「いつかやりたい」と思い、自ら望んで最後のシーズンに実現したプログラムだ。思い入れがある。
「(プログラムで使用している)3曲目のところを訳すると、何も後悔はしていないとなるので、自分自身、このスケート人生に悔いはないと言えるくらいやらないとな、という思いでいます」
グランプリファイナルには、フランス大会で優勝した中井亜美、2戦全勝で進出を決めた千葉百音、そしてトリプルアクセルの精度を高めて3位と2位、2戦連続で表彰台に上がり、3年ぶり2度目の進出を決めた渡辺倫果と日本勢が4名出場。そして昨シーズンの世界選手権チャンピオンであるアリサ・リュウ、アンバー・グレンのアメリカ勢が出場する。
そんな大会へ向けて、抱負をこう語る。
「もう一段上を目指していけるように頑張りたいです」
「この1カ月がいちばん、期間が空くので、ショート、フリーと、それぞれ振付師さんに連絡を取ってブラッシュアップできればと思います」
最後の出場となるグランプリファイナルは、理想へと近づくための舞台である。
