一度は見失った「一歩ずつ」という姿勢

2025年11月22日、GPシリーズ、フィンランド大会、男子フリースケーティングでの鍵山 写真/AP/アフロ

 2試合ともにミスがあり、心から納得のいく演技はできなかった。だから悔しさも課題も言葉にしてきた。

 一方で、その都度、ミスの中に次への材料や教訓を汲み取り、そして一定の感触も得てきた。例えばNHK杯の後にはこう語っている。

「試合は何が起きるか分からないです。それが今回出てしまったのが1つの学びで、どんなことが起きても落ち着いて対応する能力を身につけないといけないと思います」(ショートプログラムのスピンについて)

「まだ完成形にはほど遠いけど、今できる全力は出せたと思います」

「まだまだ伸びしろがあるパフォーマンスだったです」(試合を終えて)

「一歩ずつ」という姿勢を、一度は見失ったこともある。昨シーズン、4回転ジャンプを何本も跳ぶイリア・マリニンに対抗しようと、自身も4回転ジャンプの種類と本数を広げることに力を注いだ時期がそれだ。

 でもそれが決してプラスではないことに気づき、自身のスタンスをあらためて確認した。その結果として、一歩ずつ、がある。もうぶれることはない。

 試合の中でミスは出ている。望んでいる演技にはまだ届いていない。でも、一歩ずつ、だから、過度に焦ることもなく、ミスを受け止め、次に進むための糧にしようとしている。

 着実に、少しずつでも進んできたから得られたスケーティングやジャンプの質の高さが武器だ。

 しっかりした土台を築いてきたことは、「安定感」にもうかがえる。

 鍵山は今、2020-2021シーズンにシニアに上がって6シーズン目を過ごしている。それらを振り返れば、2022-2023シーズンに故障を抱えて他の大会はすべて欠場する中で出た全日本選手権で8位になったのを除けば、オリンピック、世界選手権、グランプリファイナル、グランプリシリーズ、全日本選手権、これら主要な大会で表彰台に上がらなかったことはない。失敗することはあっても、大きな崩れはないし、失敗があっても上位を外さないのは、安定感そして地力のレベルの高さを証明してもいる。

 まもなくグランプリファイナルが始まる。日本男子の柱として、期待と注目は大きいが、鍵山はきっと、次へとつながる過程とも捉えているだろう。

「まずは自分自身の進んでいる道を信じながら進んでいければいいなと思います」

 信念とともに、来年2月のミラノ・コルティナオリンピックを見据えながら、名古屋での舞台に立つ。