日本はデジタル時代の「負の連鎖」に陥っている

 真に我が国のデジタル化を進めるなら、政府も民間に対してもっとデジタル・フレンドリーな体制を整備すべきだ。例えば、脱紙・ハンコは当然のこと、手続きの完全デジタル化、目的別に仕様書を探せるプラットフォーム(開発者用ポータル)の構築、人にもAIにも読みやすい「オープンな仕様書」の公開などだ。

 さらに言うなら、法律制定や制度設計の際、エンジニアの参画を義務付けるべきだ。さもないと、従来のように矛盾や曖昧さを内包したままシステム要件を整理することになり、結果的に複雑怪奇で扱いにくい障害多発システムになってしまう。エンジニアが法制度の設計?という心配は無用。法律はCOBOLと同じ構文であり、法律はしょせん慣れ親しんだ「コード」なのだから。

 これまで見てきたように、我が国はデジタル時代の「負の連鎖」に陥っている。新しい技術に対する恐れが国民の不安を増大させ、それを誤魔化すために複雑怪奇な制度や仕組みを作り上げる。その迷路のような伏魔殿はやがて利権と化して隠蔽され、そこから国民の権利が排除され、エンジニアも専門家も足を踏み入れられない魔界となる。そして、それがまた恐怖を増幅するという忌まわしい連鎖だ。

 今こそ、この「負の連鎖」を断ち切り、支配・被支配などの二元論を超えた人の関係性に基づく「新しい標準」を構築しなければならない。その鍵は一体どこにあるのか。われわれ国民一人一人が考えていかなくてはならない。

※登壇予定だった日本行政書士会連合会相談役・盛武隆氏がフォーラム直前に急逝されました。謹んで氏のご冥福をお祈り申し上げます。なお、フォーラムでは事前に録音した故人の講演音声が流されました。

榎並 利博(えなみ・としひろ)
 1981年に富⼠通株式会社に⼊社。⾃治体の現場で、住⺠基本台帳をはじめあらゆるシステム開発に携わる。1995年に富⼠通総研へ出向し、政府・⾃治体分野のコンサルティング活動に従事。2010年に富⼠通総研・ 経済研究所へ異動し、電⼦政府・電⼦⾃治体、マイナンバー、地域活性化をテーマに研究活動を行う。2022年4⽉に行政システム株式会社 ⾏政システム総研 顧問および蓼科情報株式会社 管理部 主任研究員に就任。
 この間、法政⼤学・中央⼤学・新潟⼤学の各⾮常勤講師、早稲⽥⼤学公共政策研究所の客員研究員、社会情報⼤学院⼤学の教授を兼務。
「デジタル⼿続法で変わる企業実務」(⽇本法令)、「地域イノベーション成功の本質」(第⼀法規)、「共通番号-国⺠ID-のすべて」(東洋 経済新報社)など、マイナンバー、電⼦政府・電⼦⾃治体・地域活性化に関する著書・論⽂や講演等多数。
行政システム株式会社
行政システム総研