与野党を問わず肝に銘じるべき財政拡張の限界

 日本だけではないが、与野党ともに財政拡張を訴える声は大きい。しかし、コロナショックを受けて世界的に債務過剰に陥る中で、金融市場は債務返済の持続可能性を重要視するようになっている。財政拡張の財源を国債に頼ることは難しくなっており、安直にそれに頼ろうとすれば、結局は中銀による消化に依存し、通貨安に陥る。

 だからといって、財政拡張の財源を増税に求めることも得策ではない。現在、英国を率いる中道左派の労働党は、財政拡張と財政健全化を両立させようと、増税の強化に躍起である。しかし、これは“大きな政府”を追求することと同義である。世界的なスタグフレーション(景気停滞と物価高進の併存)の時代に、これはご法度な処方箋だ。

 巨額の補正予算が金融市場の混乱につながっていることを野党は批判するだろう。しかしながらその野党も、結局は財政拡張を声高に主張している矛盾がある。繰り返しとなるが、世界的な債務過剰、そしてスタグフレーションの中では、財政拡張の余地などない。“小さな政府”を追求しない限り、事態の改善は望めない。

 野党が減税や給付金を要求したために与党がそれを用意した事実も拭えない。与野党を問わず、もはや財政拡張でどうにかなる状況ではないことを、素直に認めるべきである。それでも財政拡張を貫くなら、重いインフレ税を国民は支払い続けることになる。国民を窮することが、果たして政治の責務なのだろうか。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。