日本版トラスショックで何が起きるのか?
まず、イングランド銀行がそうしたように、とにかく金融市場の中核をなす債券市場の混乱を鎮めることが最優先であるため、日銀が巨額の国債の買い入れを行う。ただし、これは強烈な通貨安圧力になるため、為替介入が視野に入る。
ただ、為替介入に踏み切っても、機関投資家が総出となって円売りに傾いた場合、まさに焼け石に水である。それにいくら日本の外貨準備が潤沢だからといって、巨額の円買い介入を続ければ外貨準備はすぐに底をつく。そもそも日本の外貨準備のほとんどは米国債なので、大量に売却すれば米国債の価格が下落し、米国との間で政治的な軋轢が生じる。
そうなると、日銀が政策金利を引き上げる以外に、円安を止める手立てはなくなる。短期金利は引き締め、長期金利は緩めるというチグハグな金融環境ができあがるわけだ。こうした不自然な金融環境は長くは持たないため、国債需給崩壊の原因となる巨額の財政出動を撤回しない限り、事態は収まらない。
自らの求心力の低下を危惧したこともあり、当初、トラス元首相は小出しに政策を修正していった。ところが金融市場の動揺が止まらず、批判の声も高まる中で、最終的に財政拡張策の全面撤回に追い込まれた。この間はおおよそ1カ月半、逆を言えば、それだけの期間で事態が収束したからこそ、英国の経済は正常軌道に戻ることができた。
物価高対策を謳う高市政権が、物価高をさらに刺激する財政拡張にこだわるのはなぜか。