「利上げをしない理由」として浮上か?
日中関係の悪化はさまざまな分野に影響を及ぼすだろうが、少なくとも円の需給環境にとっては良くないニュースである。近年、累積する貿易赤字やデジタル赤字を打ち消していたのが旅行収支黒字だった(図表③)。日本で最も消費する中国人の存在が退けば、この前提条件は必然的に揺らぐことになる。正真正銘の円安材料だ。
【図表③】

また、「次の一手」としての利上げを検討中の日銀にとって新しいリスク要因が浮上してきたということにもなる。これまで繰り返されてきた「トランプ関税にまつわる不透明感」よりも、「対中関係にまつわる不透明感」の方が現実的な懸念になりつつあることは間違いない。
もちろん、本稿執筆時点で事態は流動的であり、これが12月の金融政策決定会合において検討しなければならないほどの決定的な材料になるかはまだ分からない。ただ、トランプ関税と入れ替わるように「利上げをしない理由」が新しく浮上してきたという整理は必要だろう。この観点に立てば、対中関係悪化は当面、円売り材料として消化される公算が大きいように思われる。
※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2025年11日25時点の分析です
2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中




