インバウンド失速のダメ押しになる渡航自粛

 ちなみに、11月18日に公表された7~9月期GDPを基にすれば、名目GDP(季節調整済)は約636兆円である。1.7兆円は0.26%程度に相当する。7~9月期のGDPは名目ベースで前期比年率+0.5%、実質ベースで同▲1.8%という低空飛行にある。こうした状況下にある日本にとって、▲1.7兆円(▲0.26%ポイント分)は小さな数字とは言えないだろう。

 それよりもダメージが浅かったとしても、もともとピークアウトの兆しが見えていたインバウンド需要にとってはダメ押しになる公算は大きい。

 上述するように、旅行収支黒字や訪日外客数はただでさえ失速感が生じていたところであり、今回の中国による渡航自粛はこうした状況に重ねて起きる話だということは留意すべきである。

 周知の通り、円安デメリットがクローズアップされやすい世相においてインバウンド需要の喚起は数少ない円安メリットである。この部分が弱まるのだとすれば、当然、日本の外貨稼得能力は衰えるし、その分、需給は円売りに傾斜しやすくなる。

 このインバウンド需要の先行きがもともと怪しくなっていたという事実はあまり大きく報じられてはいない。

 旅行収支は年初来9カ月間で+5兆479億円と過去最大だったが、7~9月期合計で見れば+1兆3296億円と前期(+1兆9185億円)比で▲5259億円の減少である。実はこの減少幅は現行統計では最大だった。同様に、訪日外客数も4~6月期(1098万人)から7~9月期は前年比▲84.9万人の1013万人へ減少している。これも過去最大の減少幅だった。

 こうしたペース鈍化の背景には諸要因が考えられる。過去3年で見れば円安がピークアウトしていること、7月にはSNSを中心に日本への大災害が噂されたこと、観光産業が供給制約に直面していること、そもそも海外需要も停滞していることなどが挙げられ、何が決定打になったのかは分からない。

 しかし、例年ハイシーズンである夏季休暇に相当する7~9月期に大幅減少となったことの意味は小さくない。2023年3月まで鎖国政策を採用し、前年比で見ればジャンプアップが当然だった日本の旅行収支黒字を取り巻く状況が変わりつつある。今回の中国による渡航自粛はこうした状況に重ねて起きる話だということは留意したい。

 周知の通り、円安デメリットがクローズアップされやすい世相において、インバウンド需要の喚起は数少ない円安メリットである。この部分が弱まるのだとすれば、当然、日本の外貨稼得能力は衰えるし、その分、需給は円売りに傾斜しやすくなる。

 今回のテーマから逸れるため詳述は避けるが、日本からの海産物輸入が再停止されれば、日本の財輸出が減り、貿易赤字の拡大につながる。日中関係悪化を統計面から評価すると、財・サービス(≒旅行)の両面から外貨獲得の機会が減るという含意が浮き彫りになる。