これまでのアニメのヒットとの決定的な違い
エンターテインメントの世界では、良い作品はいずれ必ず評価されるという見方は根強い。大ヒットの理由も、「作品が良かったから」と説明されがちだ。
しかしグローバルヒットを狙うのであれば、いまはそれだけでは足りず、強力な売り出しが欠かせない。いい作品だからこそ、むしろ積極的にプロモーションを仕掛けることでヒットはより大きくなる。
これまでは、海外での日本アニメのヒットは製作サイドが知らないところで火がつき、日本の製作サイドはその動きを後追いで対応することが多かった。しかし、『鬼滅の刃』のヒットは、日本側から仕掛けている点が特徴だ。これが、『鬼滅の刃』が日本アニメの海外ビジネスにおける大きな転換になると言える理由だ。
今回の大ヒットでは、世界配給に参加するソニー・ピクチャーズの役割も見逃せない。『鬼滅の刃』製作の中心であるアニプレックスはソニーグループ傘下のアニメ企業で、さらにシリーズを世界配信するクランチロールもソニーグループが2021年に買収した会社だ。いずれもコアなアニメファンに強い企業だが、これにソニー・ピクチャーズが持つハリウッドメジャーのインフラが結びついた。
こうした『鬼滅の刃』のヒットは、ハリウッドの映画ビジネスにも衝撃を与えている。2025年世界興行第5位は、『スーパーマン』やピクサーの大作『星つなぎのエリオ』、ドリームワークスの『ヒックとドラゴン』(実写)、『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』などを上回る。
映画興行情報サイトによれば、これらの作品の製作予算はいずれも200億〜300億円程度か、それ以上だ。近年は日本でも大作の劇場アニメの制作に数十億円の予算がかけられることもあるが、それでもハリウッドの予算とは一桁違う。
制作予算が圧倒的に低い日本アニメがハリウッド大作と同等に戦える事実に、世界が驚愕する。世界で大ヒットするかどうかは、投入できる製作予算次第という既存のハリウッドの常識を覆した。
ところで『鬼滅の刃』は、世界のどこでヒットしているのだろうか。日本のヒットは大きいが全体の3分の1程度で、必ずしも国内主導ではない。