米国だけでも中国だけでもない、本当の世界的ヒット

 答えはシンプルで、まさに全世界である。実はこれが意外に難しい。

 2025年世界最大のヒット作は、中国のアニメーション映画『ナタ 魔童の大暴れ』 である。しかし本作の興行収入15億4400万元(約3360億円)の99%は中国国内のものだ。巨大な数字は中国の膨大な人口に支えられたもので、世界最大のヒットではあっても、「世界的なヒット」とは言えない。

『無限城編 第一章』の北米市場も興味深い。外国語映画で史上最高の興行収入を叩き出し、2週連続で興行収入で1位になったが、それでも北米市場での年間ランキングは14位にとどまる。世界ランキング5位と比べると、対照的だ。言い換えれば、日本と北米以外の世界各地で多くのファンを掴んだことが『鬼滅の刃』のヒットの秘密である。

 たとえば、韓国や台湾などではロングラン興行されている。インドでの興行収入は他国の市場と比べて数字は必ずしも大きくはないが、インドにおける日本映画の最大のヒットとなっており、非ハリウッド系外国映画としてもインド史上最大の興行収入となっている。

 サウジアラビアなどの中東諸国、さらにラテンアメリカの国々でも好調だ。こうした新興国はこれまでハリウッド映画の牙城だったが、『鬼滅の刃』が日本アニメとして初めて大きな存在感を示している。

 いま、日本のアニメ業界で注目されているのは、こうした世界レベルの強さが『鬼滅の刃』だけにとどまらない可能性である。日本アニメ全体の人気が世界で拡大しているからだ。そうであれば今後、『鬼滅の刃』に続く作品が世界規模で大ヒットしていくのではないかと、多くの映画ビジネス関係者が感じている。

 実際、世界の映画ビジネスは大きな変化に直面している。ハリウッド映画の退潮がいまや世界規模で起こりつつある。世界各国で独自の映画や番組の制作が増え、シェアを伸ばしている。日本では洋画、とりわけハリウッド映画の不振が指摘されているが、これは日本だけの現象でない。たとえば中国ではコロナ禍以降、ハリウッド映画のシェアが大幅に低下している。

 ハリウッド映画の退潮は、各国で自国の作品だけでなく、ハリウッド以外の外国作品にもチャンスを広げる。その最有力候補が日本アニメだ。

 この追い風を生かせるかどうかは、今後の日本企業のビジネス戦略次第だ。『鬼滅の刃』のみならず日本アニメの勢いを見ていると、日本のアニメビジネスの未来は明るいと言えそうだ。 

数土 直志(すど・ただし)
ジャーナリスト。国内外のアニメーション関する取材・報道・執筆を行う。また国内のアニメーションビジネスの調査・研究をする。「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。大手証券会社を経て、2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」、その後「アニメ!アニメ!ビズ」を立ち上げ編集長を務める。2012年に運営サイトを(株)イードに譲渡。2016年7月、イードを退社。