『鬼滅の刃』を大ヒットさせた戦略とは
『「鬼滅の刃」無限城編 第一章』の世界興行収入の約1200億円の内訳を見れば、3分の2以上が海外からである。これまでも日本より海外で稼いだ劇場アニメはあった。しかしこの規模で興行収入の3分の2以上を海外が占めた作品は前例がないだろう。本作はハリウッド規模の映画ビジネスを、世界で初めて成功させた日本映画と言える。
世界的な大ヒットは偶然生まれたわけでない。アニプレックスやクランチロールといった関係会社が当初から海外に向けて周到に戦略を立てていた。
米ロサンゼルスでのプレミア(写真:REX/アフロ)
前作『無限列車編』の北米興行収入は約5000万ドル(約77億円)。これも大きなヒットだが、『無限城編 第一章』はその2.6倍の1億3000万ドル(約200億円)と、大きく上回った。
この爆発的な伸びは、作品が優れていたこと、大衆的な人気を獲得できるストーリーだったことは大前提だが、それは理由の一つにすぎない。それだけではこれほどの大ヒットは生まれない。映画の存在を広く知らせる製作サイドの周到なマーケティング戦略が功を奏した結果だ。
例えば、『鬼滅の刃』のコアのファンに向けたマーケティング。前作から劇場公開に合わせて世界各地で制作スタッフや声優による舞台挨拶を実施してきた。訪問先は、欧州から北米、東アジア、さらにインドやラテンアメリカに至るまで幅広い。現地で声優などがイベントを盛り上げることはもちろんだが、ファンと直接コミュニケーションをとることで、次回作以降にもファンを繋ぎ止める効果を期待したはずだ。
また『無限城編 第一章』のプロモーションは、これまでの日本アニメ映画宣伝の常識を大きく上回るものだった。
今年7月、米国で開催された巨大ポップカルチャーイベント「サンディエゴ・コミコン」。スター・ウォーズやスーパーマン、スパイダーマンなど米国の人気タイトルが集結するなか、『鬼滅の刃』の存在感が際立っていた。
会場で巨大な壁面広告を掲出したほか、コミコンの象徴とされるホールHと呼ばれる会場で6000人を集める単独イベントを開催した。アニメコンと呼ばれる日本アニメが集まるイベントでの大きな展開はこれまでにもあったが、サンディエゴ・コミコンではハリウッド大作並みの大型プロモーションに打って出ることで、コアファンのみならず、その周辺にいる幅広い層へのリーチも狙った。